About Us 私的複製に関する
適切な対価還元の仕組みを

現在の「私的録音録画補償金制度」にはさまざまな問題が生じており、権利者に適切な対価還元がなされているとはいえません。 JASRACを含む権利者団体は、創造のサイクルを大きく確かなものとし、音楽文化の発展に資するような、合理的で実効性ある対価還元の仕組みの構築を目指しています。

私的複製における補償制度の意義

自分が楽しむため、または家族で楽しむためなど、ごく限られた範囲で使うために著作物をコピーすることを「私的使用のための複製(私的複製)」と言います。
著作権法第30条では、権利者(作詞者・作曲者や実演家、放送局など)の許諾を得ることなく私的複製を行うことができると定めています。
なお、次のような場合は、私的複製には当たりませんので、権利者の許諾が必要です。

大量にコピーする。仕事のためにコピーする。コピーした時点で私的複製の範囲だったとしても、コピーしたものを売ったり、ネットで公開したりすると、その複製は私的複製ではなくなります。

補償制度の成立

著作権法第30条は、1970年の全面改正の際に設けられたものですが、当時はCD生産開始(1982年)の10年以上も前で、まだレコードやラジオ放送をカセットテープにコピーする、アナログ全盛の時代でした。社会全体で見ても、私的複製が権利者に及ぼす経済的影響は小さいと考えられていました。

その後、デジタル化が進み、さまざまなメディアに音楽を複製して楽しむことが一般的になりました。また、テレビ番組などを録画して、いつでも観ることができるようになりました。
デジタルの進展によって、私的複製の規模が拡大し、その品質も向上したことで、ひとつひとつの私的複製を集めて社会全体で見ると、権利者に少なからず経済的な影響を及ぼしていると言わざるを得ない状況になったのです。

1970年代に考えられていた状況:音質が劣化する。録音できる曲数が限られる。持ち運びがしづらい。→経済的影響が小さい
現在の状況:音質の劣化がほとんどない。録音できる曲数が多い。持ち運びが容易→経済的影響が大きい

そこで1992年に法律が改正され、現在の私的録音録画補償金制度が導入されました。
私的複製において、権利者に適切な対価が還元される仕組みをつくり、ユーザー、メーカー、権利者の利益のバランスを調整することは、新たな創作につながり、日本の音楽文化の発展にとって大きな意義を持ちます。

権利者「対価が還元された!」ユーザー「いつでもどこでも音楽が聴けるようになり便利になった!」メーカー「機器が売れて利益が出た!」権利者からユーザーへソフトを提供。ユーザーからメーカーへ機器の価格+補償金を提供。メーカーからユーザーへハードを提供。メーカーから権利者へ補償金を提供。

現在の補償金制度の問題点

現在の私的録音録画補償金制度は、次の2つの原因により十分に機能していません。

原因1.実際に使用されている機器・メディアが補償金の対象となっていない

機器・メディアが私的録音録画補償金の対象となるには、国の政令により指定される必要があります。政令が決められるまでには、著作権を所管する文部科学省とメーカーを所管する経済産業省との間の合意が事実上必要になりますが、その調整が難しく、なかなか新しい機器・メディアが追加指定されません。私的録音に係る補償金に至っては、1998年以降、追加指定されていません。

このように、政令で指定された機器・メディアと、実際に使用されている機器・メディアとが乖離してしまった結果、私的録音録画補償金の金額は、2001年度の約40億円をピークに急減し、2020年度には約1千9百万円になっています。

原因2.メーカーが支払義務者ではなく協力義務者とされ、制度が適切に機能する仕組みになっていない

現在の制度では、私的録音録画補償金は次の流れで支払われています。日本の法律上、補償金の“支払義務者”はユーザーで、メーカーは補償金の請求と受領の“協力義務者”とされています。

しかし、メーカーの負う協力義務の具体的内容は必ずしも明らかではなく、「法的強制力を伴わない抽象的な義務」に過ぎず、「金銭を支払う義務を負うものと認めることはできない」とした裁判例(東京地裁平成22.12.27 平成21年(ワ)40387号)もあります。仮にこの裁判例の理屈に従うと、メーカーの協力が得られず、制度は事実上機能しなくなってしまいます。

ユーザー(支払義務者)①機器の価格+補償金→メーカー(協力義務者)②補償金→指定管理団体
  • 政令で補償金の対象と指定された録音・録画機器(特定機器)やメディア(特定記録媒体)の販売価格にあらかじめ補償金が上乗せされ、それを購入時にユーザーが支払います。
  • 購入の際にユーザーから支払われた補償金は、メーカーを通じて、文化庁長官が指定する指定管理団体(※)に納入されます。

※指定管理団体には、 私的録音録画補償金管理協会(sarah) が指定されています。

現在の補償金制度は、私的録音録画の実態から乖離し、機能をほぼ停止しているため、権利者に正当な対価が還元されていません。ユーザー・メーカー・権利者の三者のバランスをとるために、合理的で実効性のある新たな制度を組み立てる必要があります。

また、内閣に設置された知的財産戦略本部による「 知的財産推進計画2022 」では、今後取り組むべき施策として、クリエーターに適切に対価が還元され、コンテンツの再生産につながるよう、デジタル時代に対応した新たな対価還元策の検討を進めること、私的録音録画補償金制度については、新たな対価還元策が実現されるまでの過渡的な措置として、私的録音録画の実態等に応じた具体的な対象機器等の特定について必要な措置を構ずることが掲げられ、2022年10月には補償金の対象となる新たな機器としてBlu-Rayレコーダーが指定されることになりました。現在の補償金制度の見直しを含めた「新たな対価還元策」の在り方について、今も文化審議会著作権分科会で話し合われています。

新しい補償制度を(提言)

JASRACを含む権利者団体は、合理的で実効性ある、新たな補償制度創設に係る提言をしています。

提言1. 実態に合うよう“コピー機能”を対象に

今の制度では補償金の対象とすべき機器・メディアを政令で個別に指定するため、それまでの間に複製機能を持った新しい製品が次々と市場に流通してしまいます。補償の対象を、法律により、“コピーできること=コピー機能”とすれば、個別指定に伴う問題を解決できます。

現状は個別に政令で指定 対象機器:CD、カセット 対象外:スマートフォン、PC
提言
コピー機能を対象 コピーできる媒体(CD、スマートフォン、新しい機器)

提言2. 支払義務者を“メーカー”に

今の制度ではユーザーが支払義務を負い、メーカーは補償金の請求と受領についての協力義務しか負っていません。
しかし、私的複製のたび、異なる権利者に補償金を支払うのはユーザーにとって多大な労力・時間・コストを要し、現実的ではありません。
ユーザーがコピーすることを前提に、複製機能を持った大量の機器・メディアを製造し、利益を得ているメーカーを“支払義務者”とすれば、その売上げの中から支払うこととなり、合理的です。
実際、ドイツ、フランス、アメリカなど海外では、メーカーが支払義務を負っており、メーカーを協力義務者とする日本の現行制度は、世界的にも特殊なものとなっています。

提言の詳細については、次のPDFをご覧ください。
JASRAC:「新たな補償制度創設の提言」

<参考>補償金の対象となっている機器・メディア

デジタル録音用機器 デジタル録音用記録媒体
DAT(デジタル・オーディオ・テープ)レコーダー DAT
DCC(デジタル・コンパクト・カセット)レコーダー DCC
MD(ミニ・ディスク)レコーダー MD
CD(コンパクト・ディスク)レコーダー CD
デジタル録画用機器 デジタル録画用記録媒体
Blu-ray(ブルー・レイ)レコーダー Blu-ray
DVD(デジタル・バーサタイル・ディスク)レコーダー DVD-R、DVD+R、DVD-RW、DVD+RW、DVD-RAM
DVCR(デジタル・ビデオ・カセット・レコーダー) DVカセット
D-VHS(データ・ビデオ・ホーム・システム)レコーダー D-VHS