2月19日、音楽クリエイターに向けたトークイベント「JASRAC Creator's Path ''MIX''」を渋谷区のイベントスペース「東京カルチャーカルチャー」で開催しました。
今回のテーマは「ボカロPのためのライフハック」。ボカロPとして活躍する、ねじ式さんと市瀬るぽさん、日本ネットクリエイター協会(JNCA)の仁平淳宏さんをゲストに迎え、音楽制作や音楽で食べていくためのコツなどについて幅広く語ってもらいました。
■ゲスト(写真左から)
・ねじ式さん(主な作品:『フリィダム ロリィタ』『Ice breaker』『ブラッディ グラビティ』など)
・市瀬るぽさん(主な作品:『alive』『Step by step』『Future Sign』など)
・仁平淳宏さん(日本ネットクリエイター協会(JNCA)専務理事)
どんな機材を使っていますか?
市瀬さんとねじ式さんが、音楽制作スタジオや使用機材をそれぞれ紹介してくれました。

市瀬さん
僕はほとんどの曲を鍵盤で作っているので、MIDIキーボードは欠かせません。使用している88鍵のMIDIキーボードは、グランドピアノと同じタッチで、録音したかのようなニュアンスをそのままデータに起こすことができます。スピーカーはあえて特徴のないものを選び、その中でどれだけ面白い音を作れるかを意識して作曲しています。
この中で最近購入したのはDJ機材です。僕はDJをする機会も多いので、ステージで思い通りのパフォーマンスをするため、クラブにあるものと同じ機材を選びました。本格的なDJ機材を使ってスタジオで友人とパーティーすることが夢だったんですよね(笑)。

ねじ式さん
僕は市瀬さんのように鍵盤で曲を作ることもあれば、ベースやギターから作り始めることもあります。そのときどきで使う楽器や機材が異なるので、手の届く範囲にいろいろな機材を置いています。もともとバンドマンだったこともあり、生音を多用するので楽器はたくさんありますね。(市瀬さんの白い椅子を見て)椅子は黒いほうがいいですよ。ビールやハイボール、何をこぼしても汚れが気にならないので(笑)。
仁平さん
一言でボカロPと言ってもさまざまな創作スタイルがありますね。お二人のスタイルの違いがスタジオに表れていて面白いです。
ボカロPとして独立した転機
続いて、お二人がボカロPとして生計を立てられるようになった転機について伺いました。
市瀬さん
僕は明確にここだと言えるものがあります。2020年に「プロジェクトセカイ カラフルステージ! feat. 初音ミク」というゲームアプリに僕の楽曲が採用されたこと、2021年に「musicるTV」というテレビ番組で100人のボカロPの中から選ばれ「FANTASTICS from EXILE TRIBE」に楽曲提供したこと。この二つの出来事がきっかけで、会社を辞めてボカロPとしてご飯を食べていけるようになりました。
ねじ式さん
僕は名古屋の音楽スクールで先生をしながら音楽活動をしていました。音楽スクールの月給と同じくらいの額の印税が入ってきたとき、音楽活動に集中すればもっと大きな結果を出すことができるかもと思ったんです。そんな中、生徒には「ねじ式」というアーティスト名は明かしていなかったのですが、「先生ってねじ式なんですか?」とバレてしまい、これはもうボカロPとしてやっていくしかないと、スクールを辞める覚悟が決まりました。
おススメの〇〇を教えて!
市瀬さん
僕のおすすめは、ボカロ曲を探すときに便利な「Kiite Cafe」というサービスです。これは、ユーザーが作ったプレイリストが順番に流れていき、そこにアクセスしている人でリアクションしあうというサービスで、一日に何曲もアップされるボカロの最新曲から10年以上前の曲など、さまざまな曲が流れるので、お気に入りの曲を見つけることができますよ。
仁平さん
僕もある番組で「Kiite Cafe」を紹介したことがあります。自分の好みにあった曲をおすすめしてくれるという面白い機能もあるので、皆さんもぜひ使ってみてください。
ねじ式さん
僕は、機材の買い方についてです。ネットの評価が良いという理由で高い機材を買ったものの、自分の創作スタイルに合わなかったという話をよく聞くんです。「高い機材を買っておけば安心」という気持ちも分かりますが、人によって出したい音は違うので、自分と近い音作りをしている人から情報を得て機材を買うほうが、求める機材をリーズナブルに手に入れることができると思います。
気になるお金回りの話
話は、著作権で保護されたコンテンツを識別・管理できる YouTubeの「Content ID」の話題に。
ねじ式さん
僕は現在、収入の7割以上を印税などの著作権関連で得ています。コロナ禍でイベントがなくなったときは、印税にとても助けられました。
仁平さん
皆さんYouTubeのContent IDについてご存じですか?Content IDを活用すると「歌ってみた」「踊ってみた」動画などで自身の楽曲が利用されたとき、自分に収益が入る仕組みを作ることができます。自分の楽曲が動画に使われやすいように戦略的に曲を出していくことも重要だと思います。その点、市瀬さんはいかがですか?
市瀬さん
楽曲の権利関係についてしっかり考え出した時期にContent IDの仕組みを知り、(TuneCoreなどのディストリビューターや音楽出版社を通して)登録をしました。その結果、ゲームに収録された僕の楽曲がYouTubeの実況動画などで二次利用されることで、収益が予想以上に入ってくることに驚きました。それ以降は、楽曲をリリースすれば、真っ先にContent IDを登録してもらっています。
仁平さん
お金回りの話に関連して、日本ネットクリエイター協会(JNCA)の活動を紹介させてください。JNCAは、ネットクリエイターの実情を理解した税理士をご紹介したり、楽曲が著作権侵害されたときの法律相談など、クリエイターの皆さんへさまざまな支援活動を行っています。相談ごとがありましたら、お気軽にご連絡ください。
トークイベント終了後には懇親会を開催し、ゲストの3人とJASRAC役職員が参加者の皆さんと交流しました。
JASRACは引き続き、音楽クリエイターの皆さまに興味を持ってもらえるようなイベントを開催し、コミュニケーションを深めていく取り組みを続けてまいります。