12月10日、JASRACと直接ご契約をいただいていない音楽クリエイターに向けたトークイベント「JASRAC Creator's Path "CHANGE"」を渋谷区のイベントスペース「東京カルチャーカルチャー」で開催しました。
日本のカルチャーとして世界から注目される「特撮」と「2.5次元舞台」。この2つの分野で活躍されている作曲家の坂部剛さんと佐橋俊彦さんをゲストに迎え、劇伴完成までの過程や楽曲制作の舞台裏をお聞きしました。
坂部 剛 さん(作曲家) 主な作品 ・『仮面ライダーガヴ』 ・『ウルトラマントリガー』 ・『王様戦隊キングオージャー』 ・舞台『魔法使いの約束』シリーズ など |
佐橋俊彦さん(作曲家) 主な作品 ・『仮面ライダー電王』 ・『ウルトラマンメビウス』 ・『獣電戦隊キョウリュウジャー』 ・『機動戦士ガンダムSEED』 ・ミュージカル『テニスの王子様』 など |
オープニングトーク
坂部さんは学生時代に、佐橋さんのアシスタントを務めていました。出会いのきっかけや坂部さんのアシスタント時代の経験など、お二人ならではのオープニングトークが展開されました。
佐橋さん
私の仕事が大変だったときにアシスタントを探していたら、知り合いを通じて「国立音楽大学に入った子がいるから」と坂部君を紹介されました。いきなり戦場に連れて来られた感じだったよね。
坂部さん
私が18歳の時で、最初は何をやっているか全く分からなかったですね(笑)。劇伴は、最初に音響監督から"こんな曲が欲しい"というメニュー表みたいなものをもらいます。ただし、この段階で台本のどのシーンにこれらの曲が当てはまるかは決まっていないこともあるんです。佐橋さんから「そんな時は台本を読んで、どのシーンに当てはめるか想像して作る方がよい」と教わったのを覚えています。
佐橋さん
だって、メニュー表には「朝①~④」しか書いていない場合もあるんですよ。「朝」だけですからね(笑)。それでも台本を読むとイメージをつかめるので、僕はそうしていると伝えました。
「特撮」での音楽制作の特徴、心がけていること
テレビシリーズの特撮といえば「仮面ライダー」「ウルトラマン」そして「スーパー戦隊」。今日のゲスト坂部剛さんと佐橋俊彦さんのお二人は、時期は違えどこの3種類の劇伴を担当しています。同じ特撮でも作品の種類によって、制作する楽曲の雰囲気や特徴が異なるようです。
坂部さん
ウルトラマンにはメジャー系の曲を、戦隊ものや仮面ライダーにはマイナー系の曲を主要曲に選ぶことが多いんですよね。戦隊ものや仮面ライダーは戦闘シーンで流れる曲には日本人らしい哀愁のようなものがあって、そこにウルトラマンの楽曲との明確な違いがあると思っていたんです。
佐橋さん
僕は最初の仮面ライダーを見ていた世代なんです。今でこそ仮面ライダーは明るい主人公だったりしますけど、最初の仮面ライダーは改造された人間で、それを背負って生きていかなきゃならないっていう非常に暗いストーリーだったんですよね。それもあってマイナー系の曲が合ったんだろうなと思うんです。ウルトラマンはよりヒーロー色が強いからメジャー系の曲の方がいい。同じことを考えていたんだね。
ジャパン・カルチャーとしての「特撮」「2.5次元舞台」
続いて、2.5次元舞台の代表的な作品であり、お二人がそれぞれ劇伴を担当したことのあるミュージカル『テニスの王子様』(通称テニミュ)の話題に。また、作品として完成された原作に対して新たに音楽を制作する際に心がけていること、2.5次元舞台の今後などについても伺いました。
佐橋さん
テニミュの初期は「ここでサーブ」「ここでアタック」「ここでセリフ」というタイミングが記されたラリー表というものに合わせて作曲していました。しかも、振り付けが決まってから依頼が来るので、二人で「これ3曲くらい作ると神経やられるよね」って話したよね(笑)。テニミュに限らず、コンテンツとしてオリジナリティーのある2.5次元舞台は、動きながら歌うという難しさをクリアしていけば、世界に通用するものだと思っています。
坂部さん
最初は動きと音楽を完全に合わせていましたね。今はBGMのような形で音が流れる形に変わってきています。私はある人が舞台のキャストに言っていた「迷ったら原作を見なさい。答えはそこにある」という言葉が心に残っていて、今も音楽制作で迷いが生じたときは原作に立ち戻るようにしています。また、特撮シリーズは長く続き、みんなが通るコンテンツです。こういうものは他に無いと思うので、そこに僕の音楽が流れることに喜びを感じています。
これからやってみたいこと
佐橋さん
アンビエントミュージック(環境音楽)に興味があるので、そういうアルバムも作ってみたいです。また、音楽を30年以上やってきたので、音楽以外のこともやってみたいですね。
坂部さん
なるべく多くの人に聴いてもらいたいと思っているので、ミュージカルやアニメ、特撮に関わっていきたいですね。私はもともと室内楽が好きだったので、それが中心の作品に関われたらうれしいです。
トークイベント終了後は懇親会を開催し、ゲストのお二人とJASRAC役職員が参加者の皆さんと交流しました。参加者からの「学生時代やっておくべきことは?」という質問に対して、佐橋さんは「譜面ソフトを使えるようにする。オーディションに積極的に参加する。いろんなところに顔を出す。デモ曲をたくさん作っておく。ピアノが弾けるなら稽古ピアニストをやってみる」と、チャンスをつかむための準備や行動が大切だと語りました。
JASRACは引き続き、音楽クリエイターの皆さまが興味を持ってもらえるようなイベントを開催し、コミュニケーションを深めていく取り組みを続けてまいります。