MagazineJASRAC音楽文化賞

第12回JASRAC音楽文化賞受賞者を発表

「JASRAC音楽文化賞」は、売上や利用実績などの数字には表れない地道な活動を行っている個人・団体・作品等に光をあて、音楽文化の発展に寄与した功績を称え顕彰することにより、今後の活動への励みとしていただくことを願い、2014年11月に創設されました。

第12回の受賞者は次の方々に決定し、2025年11月18日、都内で行われた贈呈式にて表彰盾と副賞が贈られました。


<第12回JASRAC音楽文化賞 受賞者>
ぐらもくらぶ 様
一般社団法人 HOPEプロジェクト 様
株式会社 矢川ピアノ工房 様
北海道農民管弦楽団 様

ぐらもくらぶ 様

顕彰理由

SPレコードでしか聴くことのできない貴重な音源をCDで復刻するレコードレーベル。日本人によるジャズやタンゴ、ラテンなどにとどまらず、昭和初期に流行した秘曲や、日本の庶民芸能の聖地「浅草六区」や「大大阪」などにゆかりのある芸人や歌手など、日本のポピュラー音楽の源流となる音源を多数復刻している。これら明治・大正・昭和戦前期の音源の発掘は史料としての価値も高く、日本の音楽文化の豊かさを示す意義のある取り組みを顕彰する。

受賞者コメント(保利 透 様)

ぐらもくらぶは、昭和100年でもある今年7月に15周年を迎えました。戦前のジャズ音楽を再び検証しようという大きな流れになっていたのが15年前です。その後、大手レーベル各社の皆さまのご協力のもと、さまざまなSPレコードの復刻版制作を皮切りに、大手では企画されにくいものや、社会性や批評性を持たせたユニークな音源を、CDとして復刻してまいりました。これらの活動は1人ではできませんでした。監修・解説を担当していただいた方、デザインを担当していただいた方、不足している音源を補うために惜しみなくレコードを提供していただいた方のおかげで受賞できたのだと思います。この受賞をもって、感謝の言葉とさせていただきたいと思います。

略歴・実績
アーカイブ・プロデューサー、戦前レコード文化研究家の保利透氏(写真)が主宰するレコードレーベル。2010年、保利氏が協力者とともに、同氏の保有するSPレコード音源を通して歴史の中に埋もれている社会や文化、世相をユニークな切り口で紹介する活動を開始。大手レーベルの復刻企画を皮切りに、2012年には独自のレーベルとして昭和戦前期までのSP音源を復刻し、これまで50作のCDを世に送り出している。近年では現代の演奏家が戦前の録音方法を再現する活動『大土蔵録音』が注目されたほか、関連書籍の発行や図書館や美術館でのSPレコードの実物展示などの活動を盛んに行っている。レーベル名は昭和9年に大阪の蓄音器商により設立された「ぐらも・くらぶ賞」に由来する。2022年「第34回ミュージック・ペンクラブ賞最優秀作品賞」受賞。

一般社団法人 HOPEプロジェクト 様
株式会社 矢川ピアノ工房 様

一般社団法人 HOPEプロジェクト 様

株式会社 矢川ピアノ工房 様

顕彰理由

原爆が投下された広島と長崎で、原爆の爆風、熱線、放射能などの被害を受けた「被爆ピアノ」を修復・保存し、各地で演奏会などを開催している。戦後80年を迎え、戦争に関する人びとの記憶の風化が進む中、「被爆ピアノ」は戦争の悲惨さ、平和を祈る尊さについて考える機会を生み出し、記憶をとどめる装置として機能し続けている。「被爆ピアノ」の保存と活用に尽力してきたそれぞれの取り組みは、未来に音楽の可能性を託し、ピアノの音色を通じて平和への思いを次の世代につないでいる。

受賞者コメント(代表理事 二口 とみゑ 様)

私は広島で生まれて育ち、原爆で亡くなった河本明子さんのご両親とお付き合いがありました。2004年に、ご自宅や、被爆の傷が残っている小さなアップライトピアノを処分されると聞いて、本当に忍びなく思い、ピアノを譲り受け、調律師の坂井原浩さんに修復していただきました。このピアノのことを、「明子さんのピアノ」と呼び、各地で演奏会をしたり、マルタ・アルゲリッチさんなど著名なピアニストにも弾いていただきました。このピアノの演奏を聴いた感想を子どもたちに聞くと、「やさしく穏やかな気持ちになる」と言ってくれます。「それが平和の種よ」と伝えています。心を開いて握手をすること、お隣の人たちを慈しむことが平和へとつながっていくと子どもたちに話しながら、このピアノの音色を聞いてもらっています。この賞を励みにしてこれからも頑張っていきたいと思います。

受賞者コメント(取締役 矢川 光則 様)

広島でピアノの調律師という仕事を、50年ちょっとやっています。原爆は人間だけではなく、一瞬にしてあらゆるものを被爆させてしまいます。80年前に広島市内の民家で被爆したピアノを修復して、自前のトラックに積んで日本全国を回り、平和の種まきをしています。この活動は、みるみるうちに広がっていき、すでに北海道の稚内から南は沖縄まで、全国47都道府県全てをこの被爆ピアノと回りました。活動を長く続けるうちに、今では7台の被爆ピアノを管理所有しています。例年、年間140~150回のコンサートを全国で開催していますが、今年は、被爆80年ということで1月から12月までほとんど毎日休みなく、300回近く開催する予定です。受賞式にはちょうど北の大地を回っていて出席できませんでしたが、今後も元気でいる限りこの活動を続けていきたいと思っています。

略歴・実績

一般社団法人 HOPEプロジェクト 様

法人名は、Hiroshima Overplaces People's Educationの頭文字から。代表理事は二口とみゑ氏(写真)。広島への原爆投下で亡くなった河本明子さん(当時19歳)が愛用し、原爆で傷ついたピアノを、明子さんの両親と親交があった二口とみゑ氏が譲り受け、2005年、調律師の坂井原浩氏によって修復、「明子さんのピアノ」として保存・管理し、人々に伝える取り組みを行っている。このピアノを2005年8月に被爆60周年祈念「被爆ピアノチャリティコンサート」で演奏使用して以降、コンサートや平和学習の場に貸し出してきた。ピアノは現在、広島市平和記念公園内のレストハウスに被爆遺品として常設展示され、マルタ・アルゲリッチ氏らもこの地を訪れ、演奏している。2019年「第21回国際交流奨励賞」受賞。

株式会社 矢川ピアノ工房 様
1995年、前代表(現取締役)の矢川光則氏(写真)が創業。ピアノの販売・調律とともに、古いピアノの再生を行い、福祉施設などへ寄付する奉仕活動を始める。その活動の中で「被爆ピアノ」と出会い、2001年から広島市の平和記念公園でコンサートを始める。2005年からは全国から依頼を受けて各地に「被爆ピアノ」を運び、演奏会などで活用する取り組みを開始。現在修復した「被爆ピアノ」を7台所有し、演奏会回数は3,500回を超える。2010年にニューヨークのコンサートで、2017年にオスロで開催された「ノーベル平和賞コンサート」でも使用された。また子どもたちがいつでも学ぶ機会を持てるようにとの願いから、2021年、同社敷地内に「被爆ピアノ資料館」を開館し、平和学習の場として提供している。

北海道農民管弦楽団 様

顕彰理由

北海道在住の農家や農業関係の仕事に携わる音楽愛好家が集い、結成されたオーケストラ。宮沢賢治が執筆した芸術論『農民芸術概論綱要』に共感し、「鍬(くわ)で大地を耕し、音楽で心を耕す」をモットーに演奏活動を続けている。賢治の夢を現代によみがえらせ、生活に根差した芸術を掲げた理念の体現は、地域や職業と深く結びついた音楽活動として豊かな音楽風土を築き、地域の音楽文化振興に大きく寄与している。

受賞者コメント(代表 牧野 時夫 様)

北海道の大地に憧れて、北海道大学農学部に入学しました。そこでオーケストラを始め、宮沢賢治の『農民芸術概論』に出会いました。今から100年ぐらい前、教師として働いていた宮沢賢治が、貧しく、文化・芸術には無縁な農民の人々こそ、文化・芸術を享受できるようにならなければいけないという思いで書いた文章です。私も一度はサラリーマンとなりましたが、教師だった宮沢賢治が農業を始めた年と同じ、30歳の時に余市でブドウ園を手に入れて、農家をやりながらオーケストラをやるという、学生時代に思い描いた活動を始めました。体を壊した宮沢賢治が実現できなかった、農業をやりながら音楽をやりたいという想いを叶え、その後、賢治の故郷である花巻の農民管弦楽団とのジョイントコンサートを実現しました。これからも、毎年一度の演奏会を続けていきたいです。

略歴・実績
現代表の牧野時夫氏(写真)が中心となり、1994年結成。農閑期に一堂に会して演奏会を行うことにより、自らの研鑽と地域文化の発展に寄与することを目的に活動するアマチュアオーケストラ。1995年1月、初の演奏会を開催、以降北海道内各地で年1回の演奏会を開催する。2011年デンマーク公演、2013年宮沢賢治没後80年を記念し、岩手県花巻市で公演を行った。農村文化の担い手との交流を図るとともに、都市住民に農村と農業への理解を深めてもらうため、積極的に各地での公演を行っている。2000年「第6回ホクレン夢大賞」、2007年「第15回北海道地域文化選奨特別賞」、2012年、2015年、2019年「ウィーン・フィル&サントリー音楽復興祈念賞」、2018年「第28回イーハトーブ賞」を受賞。

第12回JASRAC音楽文化賞選考委員(報道社名五十音順)

河村 能宏 氏(朝日新聞東京本社 文化部 次長)
佐竹 慎一 氏(共同通信社 編集局文化部 部長)
高橋 俊雄 氏(日本放送協会 解説委員室 解説委員)
堤 篤史  氏(日本経済新聞社 総合解説センター 編集委員)
清川 仁  氏(読売新聞東京本社 編集局文化部 次長)

推薦協力

一般社団法人 日本新聞協会

2025年11月18日、都内で行われた贈呈式での集合写真