Creators' View

JASRAC®一般社団法人 日本音楽著作権協会

作曲家というより音楽の演出家として映像と向き合いたい。 横山 克

作曲家というより音楽の演出家として映像と向き合いたい。

横山 克

シンセサイザーを
手にして

小学生の頃、ジブリ映画を見て、特に久石譲さんの音楽にとても影響を受けました。ただそのような作品を作りたいと思うようになったのは、ずっと後になってからです。ピアノは小さい頃から習っていましたが、練習が苦手でした。それが中学2年生のときにシンセサイザーを買って、作曲に興味を持つようになりました。特に小室哲哉さんへの憧れが強かったです。中学卒業後はコンピュータの勉強をする高専に進み、その後映画の音楽を作る事に興味を持ったのですが、楽譜を読めても書くことができなかったので、19歳になってから音楽大学に行くための勉強を始めました。

まずはコンセプトを
見つけること

作品ごとにコンセプトを見つける事を意識しています。例えば、ガンダムシリーズで僕が手掛けた「鉄血のオルフェンズ」には、荒くれ者、身寄りがない孤児たちが登場します。彼らは当然、楽器を持ってはいないでしょう。そこでバケツやデッキブラシなどを楽器として扱う「ストンプ」という音楽表現を取り入れました。NHKの朝ドラ「わろてんか」のときは、ヒロインが生まれた時代に流行していた音楽からヒントを得ました。毎回、コンセプトを監督やプロデューサーたちに提案しますが、それには相当の勇気が必要です。というのも、彼らは準備に数年単位の長い時間をかけています。そういう方々を相手に、音楽のコンセプトを提案するからには、自分自身がこれでいく、という強い意志を持たないとできません。

音響効果スタジオでのストンプの録音風景

イメージを形にする方法

音楽を制作する際は、原作や脚本、演出、美術などから得られる創作のイメージを、予算などの条件や制約の範囲で成立させます。僕は、それらをパズルのピースに見立てて、一つ一つ計算しながら作品を創作します。ピアノがすごく上手なわけではないし、過去の大作曲家のようなオーケストラ作品を書けるわけでもありません。だからこそ1個1個をかき集めて掛け合わせ、新しいものを生み出すことに力を注いでいます。例えばオーケストラというジャンルを特別視していません。オーケストラも一つの要素、「オブジェクト」として捉えています。理数系の高専で学んでいたプログラミングと似ているかもしれません。オーケストラも、民族音楽も、エレクトロも、僕にとっては等価で、全ての良いところを掛け合わせて新しいものを生み出す、それに尽きます。今ではその掛け合わせに、海外での経験が影響するようになりました。海外へ旅行するときは、現地の人に失礼のないよう、また自分の興味からその国の歴史や文化を調べたりします。その背景を学んで赴くと、そこで「こういう題材があるんだったら、次の作品で取り上げてみよう」とか。ヨーロッパでオーケストラを録音したときは、音楽が共通言語であることを強く体感しました。ドイツ語やハンガリー語しか話せない相手とも、音楽や楽譜、表現を介してコミュニケーションがとれることを改めて認識しました。インドの空気はとても独特でしたが、だからこそ、あのような独特な音楽のフレーズや捉え方が生まれます。

世界を旅して、その場所の空気感や知識を吸収して、掛け合わせて形にする、それが自分のスタイルだと思っています。

Avator Studio(現在・Power Station at Berklee NYC)でのブラスセクション録音風景。右端が横山さん

劇伴作家の「歌もの」

僕はももクロを始めとした歌も書きます。彼女たちに曲を提供する作家は数多いのですが、まるで映画のような演出表現を歌ものでやるとどうなるか、それを作るのが僕の役割と思っています。その際、僕にとっては、歌ものと劇伴どちらも作曲の根幹は一緒です。彼女たちの歌う表情を想像しながら、こういう振りが入るだろうから2小節こうしようとか、お客さんの顔を見るためにここに隙間を作ろうとか、一つ一つパズルを組み立てていきます。単にいい曲にする、ライブで盛り上がる曲にする、ということではなく、計算した「仕掛け」をいっぱい入れるんです。実際に彼女たちのライブの熱狂に身を置いて、振り付けや舞台演出との掛け合わせを楽しみ、工夫を凝らしたとおりにお客さんがノッている様子を確認できると最上級の喜びを感じます。映画館でも、ライブ会場でも、お客さんの熱気、釘付けになっている空気感、それを感じるときも同じです。

音楽の演出家として

ヨーロッパで感じたんですが、音楽の本場ヨーロッパにエンタメ系の自国コンテンツ制作が多いかというと、そうでもないのかと。比べて日本では自国のコンテンツ制作が溢れています。多くの仕事をいただける恵まれた環境にいるのですが、甘んじていてはいけないとも感じています。もっといろんな人と繋がって、いろんな国の人と仕事をしていきたいです。もっとも僕の創作の目線は、常に演出に対する音楽です。音楽と演出を結びつけることに興味が尽きません。それが自分の生き方だと思っています。作曲家として気を張ることなく、これからも内外を舞台に音楽の演出家として、映画、アニメ、ドラマなどに向き合っていきたいと思っています。

Abbey Road Studiosでのオーケストラ録音風景

横山 克

作曲家・編曲家/1982年生まれ/長野県出身
中2の時に買ったシンセサイザーがきっかけで作曲家の道へ高専を卒業後に音大へ進んだ変わり種。主な作品:ドラマ「わろてんか」「Nのために」アニメ「機動戦士ガンダム鉄血のオルフェンズ」「四月は君の嘘」映画「ちはやふる」「22年目の告白-私が殺人犯です-」楽曲「ChaiMaxx/ももいろクローバーZ」ほか
2009年3月からJASRACメンバー