実相寺昭雄監督との思い出

 実相寺昭雄さん(映画監督)との出会いも大きかったですね。彼ともラジオ東京で一緒に働いていた時期があります。彼は私の2年後に入社して、演出部に所属していました。一緒に番組をたくさんつくりましたが、途中で中止になるような問題作が多かったですね(笑)。後に映画も一緒にやりました。はじめて一緒に仕事をしたのは、「おかあさん」という30分のドラマで、よく覚えています。彼は音楽について、「アンサンブルの練習をしないで、ぶっつけ本番で録音してほしい」と言うんです。なぜかと聞いたら、「あんまり整わないほうがいい。演奏が合わない方がいいんだ」と。彼は音楽についても一途で、直観的かつ感覚的に語りかけてくる人でした。打ち合わせや話をする時間がない時は、ロケの現場を見に行きました。そうすると、「あぁ、こういうことをやりたいのか」と、何となくヒントになることがあります。でも、実現するには大変な、例えばリヒャルト・シュトラウスの四管編成のスコアみたいなことを彼は考えているのです(笑)。彼は楽譜が読めるし音楽も詳しかったので、それが難しいのは良く分かっているんですよ。そうしてお互いを刺激し合いながらやっていたから、曲が出てきたのでしょう。“ひらめく”ということは中々ありませんが、「これだな」とピンとくることはありましたね。

一つひとつの作品がターニングポイント

 映像作品の音楽に携わる時は、私は番組の監督に直接会ってお話を伺うようにしています。人を介すると、間違いが起こり得ます。こちらが勘違いするようなことがあってはいけません。また、一人よがりの音楽になってもいけないので、自分と異なる考えはたくさん聞いておくべきだと思っています。台本や脚本もしっかりと読み込みます。全てはそこからです。ある場面で、具体的に楽器などを指定されることもありますが、基本的にはこちらへ任せてもらえることが多いですね。当然、音楽全体の責任は作曲家が負います。

 ウルトラシリーズは一作品につき、少なくとも50~60曲はつくります。「ウルトラセブン」は80曲位ありました。作曲をする際は、時間がもったいないのでピアノはほとんど使いません。もちろん、確認するために弾くことはありますが、基本的には頭の中で作曲します。知っていること、勉強してきたことをフル稼動させます。制作期間がいつもとても短いので、そうしないと間に合わないのです。

 合唱曲や賛美歌は、注文を受けて書き下ろす場合が多いですね。『ガリラヤの風かおる丘で』は、キリスト教のあらゆる宗派が協力をして、ひとつの賛美歌集を作ろうという運動に参加した際に作曲しました。どの宗派でも気に入られて、よく歌われる歌になりました。

 振り返ってみると、一つひとつの作品がターニングポイントです。そもそも私は寡作ですから、余計にそう思うのかもしれません。毎回新たなものを探しています。

自分の作品は子どもと同じ。だからこそ責任がある。

 “冬木透”という筆名は、「鞍馬天狗」の時に考えました。あの頃は、演出や監督であっても社員は名前を出せなかったのです。それで、いきつけのバーで友人と一杯やりながら考えました。“冬木”は好きだった「柊」を分解して、“透”は冬の満州の凍った木をイメージしてつけました。バーのママがたまたま姓名判断をやっていて、「これはいい名前よ」と言ってくれて(笑)。

 ラジオ東京を辞めた時から、本名と区別するつもりはなく、どちらでもいいと思っていました。ところが、本名の蒔田名義で書いた曲のギャラをもらいに行ったら、冬木名義の10分の1だったのです。「間違いじゃないですか?」と窓口で聞いたら、「これはあなた、新人としての扱いだよ。蒔田で登録されてないから」と。登録しなおせばいいと言われましたが、お金をいただけるのは2カ月先になるということで、それ以降はしばらく冬木名義を使っていました。その後次第に、テレビや映画作品の音楽は“冬木透”、そうでないのは“蒔田尚昊”と、私が使い分けなくとも発注側が区別してくれるようになりました。

 JASRACにはTBSを退社した後に入会しました。どなたかに勧められたのだったかな。著作権は、今は軽んじられる世の中ではなくなったと思います。しかし、作家自身も責任を持つべき部分がありますよね。ITが普及して、自分でコントロールできない部分が多いですが、著作権の扱いは自分の責任だと意識したほうがいいと思います。作品を創作する段階でもそうですし、世に発表してからも。自分の産んだ子供を育てるのと同じことです。それを忘れてはいけないですね。

(2016年9月公開)

プレゼント

アンケートにお答えいただいた方の中から抽選で、冬木さんの直筆サイン入り色紙と以下のCDをセットで3名様にプレゼントいたします。
(応募締切:11月4日(金))

「冬木透CONDUCTSウルトラセブン」
 2009年6月3日発売
 ユニバーサルミュージック合同会社
 UMCC-1035

※アンケートは終了しました。
たくさんのご応募をありがとうございました。

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