ヒット曲の料理人

 編曲とは、「編む」という漢字が使われているので、ややこじつけですが、作曲家からもらった縦糸に、横糸を通して模様を描き出す、という言い方はいかがでしょうか。私はこの比喩が気に入っています。編曲家は、まず楽器が好きで、複雑な構築がうまくいった時の快感がたまらない、という人向きです。そして編曲の魅力は何と言っても「無限に可能性がある」ことです。もちろん、曲ごとにコンセプトがありますが、その範囲の中でも選択肢は無数にあります。何が飛び出すか分からないというおもしろさがあります。

 1970年代から90年代までは、常にアンテナを張って、洋楽などを参考にすることもありましたが、最近はお手本にしたいと思う音楽は少なく、自分の感性だけが頼りです。どちらかと言えば「音楽バカ」ですので、事務的センスや営業センスはありません。プロデュースという仕事は、金銭的な管理を伴うと思いますし、アーティストの命運を左右するかもしれないので私の度量には合いません。最近使っている言い方で言えば「なるべく上質な、美味しく、体(心)に良い料理」をお届けする、という気持ちを持ち続けていくだけです。松下幸之助の言葉「良い仕事は無言の説得力を持っている」が私の支えです。

著作権についての考え

 著作権の認識がいまだあやふやだと感じる機会が多いですが、著作権を「物」としてとらえてもらうことが分かりやすいのではないかと考えます。著作権は著作権者の「物」なのです。他人の持ち物を無断で使ったり、持ち出したりすることがいけないことであることは、誰でも分かることです。自分の自動車に他人が乗って行ってしまって黙っている人はいません。CDなどのパッケージ商品が徐々に消える中で、「物」という認識がますます薄れつつあります。なので、逆に権利は「固有の物」であるという啓発ができたらいいと思います。子どもだって「権利」と言ったら理解できなくても「物」だと言ったら理解できるでしょう。

 編曲についてですが、編曲は仕事を請け負う際に印税契約をしてもらえることは稀で、その点でも著作権の世界において、作詞や作曲と比べて日陰にいます。とはいえ、楽曲においては、歌詞とメロディ以外の鳴っている音のすべての部分が、編曲に関わるもので、つまり編曲も著作物の一つなのです。近年は作編曲に複数の名前がクレジットされる“コライト"と呼ばれるやり方が増えています。私は、1人で編曲をすることに醍醐味があると思っていますが、貢献度がきちんと評価されるのであれば、コライトによって作曲家と同列に位置づけられるようになるのも、ひとつの理想です。

JASRAC編曲審査委員会の委員長として

撮影協力:サウンドインスタジオ
(2019年1月公開)

 現在、JASRAC編曲審査委員会の委員長を務めています。主に著作権が消滅となった楽曲が対象となりますが、JASRACに管理委託している作家から提出された編曲作品について、私を含めた7名の委員が一定の基準に基づいて審査し、承認されると、JASRACの管理対象作品となるのです。眠っていた楽曲を甦らせることができる、これは編曲のなせる素晴らしさの一つだと思っています。

プレゼント

アンケートにお答えいただいた方の中から抽選で、萩田さんの直筆サイン入り著書を3名様にプレゼントいたします。

「ヒット曲の料理人 編曲家・萩田光雄の時代」
2018年6月11日発売
Rittor Music

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