作家で聴く音楽 JASRAC会員作家インタビュー
及川 眠子 Neko Oikawa

プロフィール
1960年2月生まれ。和歌山県出身。85年、「三菱ミニカ・マスコットソングコンテスト」に応募した作品『パッシング・スルー』(歌:和田加奈子)が最優秀賞を受賞し、作詞家としてデビュー。
88年、日本語詞を手がけたWinkの『愛が止まらない〜Turn It Into Love〜』が大ヒット。以降、Winkの『淋しい熱帯魚』が第31回日本レコード大賞(89年)を受賞、やしきたかじんの『東京』が全日本有線放送大賞、読売テレビ最優秀賞を受賞(94年)するなど、ヒット曲を多数手がける。
また、社会現象にもなったアニメ「新世紀エヴァンゲリオン」の主題歌『残酷な天使のテーゼ』の作詞も担当。95年の発売以降、今でもカラオケなどで人気が高いこの作品で、2010年JASRAC賞の銅賞を受賞。そのほか、アーティストのプロデュース、ミュージカルやアニメ、CMなどへの歌詞提供、エッセイの執筆など、幅広く活動している。
1987年10月からJASRACメンバー。
及川眠子さん公式サイト:
http://www.oikawaneko.com/

主な作品
Wink
『愛が止まらない〜Turn It Into Love〜』*
『涙をみせないで〜Boys Don’t Cry〜』*
『淋しい熱帯魚』
『SEXY MUSIC』*
『夜にはぐれて〜Where Were You Last Night〜』*
『ニュー・ムーンに逢いましょう』
『きっと熱いくちびる〜リメイン〜』
『真夏のトレモロ』
『追憶のヒロイン』
『背徳のシナリオ』
(*印はカバー作品の日本語詞)
やしきたかじん
『東京』
『エゴイズム』
CoCo
『はんぶん不思議』
『WINNING』
早坂好恵
『絶対!Part2』
ゆうゆ
『−3℃』
SUPER MONKEY’S
『愛してマスカット』
中森明菜
『原始、女は太陽だった』
大橋純子
『微笑むための勇気』
Tina
『PRIDE』
Rie ScrAmble
『文句があるなら来なさい!』
チャン・ウンスク
『覚悟次第』
前川清
『今がチャンスさ』
庄野真代
『奇跡の森』(熊野古道ランドマークソング)
アニメ・テレビ番組
新世紀エヴァンゲリオン
『残酷な天使のテーゼ』
『魂のルフラン』
『慟哭へのモノローグ』
(歌:高橋洋子)
名探偵コナン
『想い出たち〜想い出〜』
(歌:伊織)
PaPaPaザ★ムービー パーマン
『キミらしいまま』
(歌:石川ひとみ)
忍風戦隊ハリケンジャー
『ハリケンジャー参上!』
(歌:高取ヒデアキ)
ひとりでできるもん!‘02
『ぜったいに元気!』
ひらけ!ポンキッキ
『いっとうしょうたいそう』
JASRAC 日本音楽著作権協会
一人の力ではどうにもならない歯がゆさが面白い
作詞をするときは、時間を決めて、その中で集中するところと緩めるところとを使い分けています。集中力って20分程度しか持たないから、集中して書いたら、次は掃除したりテレビを見たり、意識を別の方向に向ける。それでまた集中する。この使い分けはうまいのかなと思います。スランプというのは経験したことがありません。スランプになるほどたいした作詞家じゃないんです(笑)。
歌になって世に出た歌詞には、思い入れは持っていません。いい詞を書けたのにボツにされたとか、歌える歌手がいなかったとか、そういう詞の方に思い入れがあります。それは、自分で持っているときは「詞」で、歌として世に出たらそれは「歌」で、歌は歌手のものという考えだからです。世に出た歌は、作詞家、作曲家、アレンジャー、歌手、エンジニアなど、いろいろな人たちのチームワークによる仕事の結果です。詞を100の力で書けたと思っていても、曲が30だったり歌が50だったりすると、自分にとっては納得のいかないものになる。だから、「詞だけ気に入っている」ということはありません。でも、作詞の仕事が面白いなと思うのは、そういう、チームワークゆえに一人の力ではどうにもならない部分があるところ。「なんでこんな歌わせ方するの」って歯がゆい思いをする、そういうところが面白いんです。
マニアックさと商人魂が生んだ『残酷な天使のテーゼ』
“高橋洋子「残酷な天使のテーゼ2009VERSION」キングレコードより発売中 私は一度も“私らしい詞”を書きたいと思ったことがありません。職業作家に私らしさなんていらない、徹底してそう思ってきました。ここからここまで全部受けられますよ、というのが職業作家で、その上で「及川眠子らしさ」があるなら、それは他人が決めること。女性の作詞家にはアーティスティックな方が多いらしいですが、私はきわめて職人、きわめてビジネスライク。商人(あきんど)です。

音楽の趣味は、わりとマニアックです。歌詞がいいなと思うのはムーンライダーズ、レナード・コーエン。好きなバンドはアメリカのザ・バンドやドゥービー・ブラザーズ、ソロでは下田逸郎さんとか。もともと持っているものはマニアックだけど、作家としては商人だから求められるものを書く。その自分のマニアックさと商人さとがうまく融合したのが『残酷な天使のテーゼ』だと思います。あの詞、マニアックですよ。アニメのディレクターに、難しく書いてと依頼されて、「私マニアックですから本当に難しくしますよ」「いいですよ」で、あれに(笑)。
職業作家でなければ書けないものがある
職業作家が減っているのは、職業ディレクターが減っているからでしょう。作家を育てるのはディレクター。そのディレクターが現場を仕切ることが少なくなって、作詞や作曲もアーティスト自身がするようになって、「え、この詞?」っていうようなものが売れちゃったりする。職業作家が育たないのは当然です。もちろん、言葉の使い方がうまいなと思うアーティストはたくさんいます。ただ、アーティストは彼ら自身の世界を表現する人たち。多種多様なもの、たとえばアニメやミュージカルなど、職業作家でなければ書けないもの、できない表現があると思います。多様なものを表現できる、そうでなければ仕事にならないのが職業作家です。
方程式を間違えないで
作詞家になりたいなら、あきらめないこと、書き続けること。そうしながら、光の当たる場所に行くには、ポイントを間違えずに売り込むこと。私のところに売り込みに来る人がいますが、同業者に売り込んでもだめ。仕事があるところにチャンスがあるんだから、コンペでも何でも、仕事があるところを探して、売り込む。あきらめず、書き続け、売り込む。それでもし才能なり資質があれば、絶対にプロになれます。これは作曲家でも同じ。この方程式を間違えないことです。
才能や資質は、ひらめきや感性だけではないでしょう。たとえば社会性、理解力、経験、あるいは執着心だったり容姿や話し方だったり、そういった要素も必要になります。私は、若い頃は自分を天才だと思っていましたが、もまれてやっていくうちに普通だと気づいて、それなら締め切りに遅れないようにする、そうやって資質の足らない部分を補ってきました。

今後の仕事のスタンスは、「基本的に何でもやる」。先日初めて文庫本の解説を書きましたが、楽しかったです。エッセイの依頼もたまにあって、これも楽しい。昔コピーライターをやっていたこともあって、コピーを書くこともあります。今は、歌の仕事は以前ほどにはありません。ボツにしたら悪いなどと思って、頼みにくいようで。でも歌以外の仕事では新人なので、新人として新鮮に楽しめる。歌以外のことをやるから、たまに歌の仕事が来ると、今度は歌の仕事が新鮮に感じられて、もっと楽しめるんです。



ご感想をこちらのアンケートにお寄せください。お答えいただいた方の中から抽選で5名様に、以下のCDをプレゼントいたします。
※アンケートは、終了しました。
高橋洋子『慟哭へのモノローグ』キングレコード/2010.4.28発売
『残酷な天使のテーゼ』『魂のルフラン』と同じ、及川眠子・大森俊之(作・編曲)・高橋洋子のチームによる、「新世紀エヴァンゲリオン」の15年ぶりの新曲。

PREV TOP12 作家で聴く音楽バックナンバーはこちら

Copyright (c) 2010 JASRAC All Rights Reserved.