作家で聴く音楽 JASRAC会員作家インタビュー Interview
大島ミチル
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映像音楽との出会いはコマーシャル
音大の作曲科に入ったのは、もともとエレクトーンを習っていて、感覚的に音楽をやっていたので、きちんと理論的に音楽を勉強したいと思ったから。その頃は映像音楽をやりたいという考えはありませんでした。きっかけは大学4年のとき。たまたま友達から「レコーディングを見に行かない?」と誘われて、行ってみたらコマーシャルの録音だったんです。スタジオでフィルムを流しながら音楽を録音していて、それがとても面白くて。こんな仕事があるんだなって思いました。で、その事務所の社長に改めて「見学させてほしい」と手紙を書いたら、「バイトで来る?」という返事をもらって。2年ほど、そこで普通のアルバイトをしました。電話受けたりテープ運んだり。そのかわりスタジオでレコーディングの様子を全部見せてもらって、現場を覚えて、大学を卒業して映像の世界に入ったんです。

でも私が映像の仕事を始めた頃は、映像音楽というのは全然主流じゃなくて、「作曲家」といえば歌謡曲やポップスの作曲家。だから私が作曲家ですって言うと、みんなに歌の曲を書いていると思われた。スタジオに行っても、ミュージシャンは「なんだ劇伴か」っていう態度、エンジニアは平気で遅れて来る、そんな扱いでした。映画の本数も少なく、サウンドトラックもほとんどCDにならなかったから、単に“映像のバックで流れているBGM”という感覚だったのでしょう。だから映像音楽をやりたいという人は少なくて。
今は映像音楽も人気が出てきたみたいですね。少なくとも私が始めた頃に比べると、映像音楽にもちゃんと認められた「作曲家」というポジションがあるんだなと感じています。
映像音楽ができるまで
映像音楽といっても、制作過程は映画とテレビ番組とではだいぶ違って、映画だと最初に映像があり、曲の長さや変化するタイミングも秒単位まで監督と細かく打ち合わせをして曲を作っていく。音付けも最後の仕上げまで関わります。テレビドラマの場合は映像が追いつかないので、企画書とか脚本の段階ですぐ打ち合わせ。もちろん映像を見ながらのほうが曲は作りやすいんですが、ある程度は「こういう風になるんだろうな」という想像もしながら作曲して、あとはスタッフとデモテープをやりとりしながら決めていく。曲ができて録音が終わったら、どう使うかは選曲の方にお任せします。

今は訓練もあって慣れているので、場面に合わせて音楽を作っていくことは、苦になりません。ただ最初の頃は戸惑うこともありましたよ。最初に手がけた本格的な映画が松方弘樹さん主演の『首領(ドン)になった男』(1991年製作)なんですが、何と表現して良いのか、ともかく初めての映画でしかもまだ20代でしたから、もう観ているだけで目が点になるシーンも多くて困りました。どう音楽をつけたらいいのか全く分からなくて、とにかく台本を見ながら映像を追っていたら、隣にいたスタッフの女性に「台本は見なくていいから映像だけ見たほうがいいですよ」って言われて。最初はそんな感じでしたね。
重要なのはコミュニケーション
私の場合、自分の中でイメージをつくると、曲はすぐ浮かぶほうなんです。だから作曲自体で悩むことはあまりないですね。一番難しいのは、映画監督や演出家の方とのコミュニケーション。自分の書きたいと思う曲と、監督のイメージとをどうすり合わせていくか。音楽っていうのはやっぱりイメージで、オーケストラを言葉では説明できない。監督も音楽家じゃないから私に細かくは伝えられない。こちらとしては監督がどういう風に考えているかを理解するように努めながら、抽象的なイメージをなるべく合わせていく。この過程は、相手にもよりますけど、大変なときは本当に大変です。
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