著作権法の一部を改正する法律の解説


 昨年十二月二十六日、著作権法の一部改正法が公布されました。この法律改正の趣旨と改正内容について、文化庁著作権課から寄稿いただいたのでその全文を掲載いたします。


一 著作権法の一部を改正する法律の成立

 著作権法の一部を改正する法律(以下、「改正法」という。)が、さきの第一三九回国会(臨時会)において可決され、平成八年十二月二十六日に平成八年法律第一一七号として公布された。これは、平成八年九月二〇日の著作権審議会第一小委員会の審議経過報告を踏まえ、著作権制度をめぐる内外の情勢の変化に対応し、著作権等の適切な保護に資することを日的とするものであり、改正頃目は、

  1. 著作隣接権の保護対象の遡及的拡大、

  2. 民事上の救済規定の整備及び罰金額の引上げ、

  3. 写真の著作物の保護期間の延長、

の三点である。

 なお、改正法は、公布の日から起算して三月を超えない範囲内において政令で定める日から施行することとしている。


二 改正法の内容

(1)著作隣接権の保護対象の遡及的拡大

 我が国は、WT0(世界貿易機関)設立のためのTRIPS協定の締結に伴い、平成六年に著作権法等の一部を改正し、現行著作権法の施行日(昭和四十六年一月一日)以降のWT0加盟国に係る実演等を著作隣接権の保護対象に加えること等の措置を講じた(これは基本的に我が国に係る実演等の保護と同じ取扱いである)。しかし、その後、我が国と同様に協定を締結した先進諸国では、五十年前までに行われた実演等を保護している国が大勢を占めることとなり、また、米国及びECからは我が国におけるWT0加盟国に係るレコードの保護が昭和四十六年以降のものに限られているのはTRIPS協定に違反するものであるとしてWT0に提訴が行われるに至った。
 これらのことを踏まえ、我が国としては、平成六年に改正された著作権法はTRIPS協定に適合するものであるとの解釈を変更するものではないが、他の先進諸国との国際的な協調を図るとの新たな政策判断から、これらの国と同様に、五十年前までに行われた我が国及びWT0加盟国に係る実演等を保護することとしたものである。(原始附則第二条第三項の削除)
 これに伴い、改正前の原始附則第二条第四項に規定されていた実演・レコード(=現行法施行の際現に旧著作権法による著作権が存する演奏歌唱・録音物)の著作隣接権の存続期間については、これまでの「旧著作権法による著作権の存続期間のうち昭和四十六年一月一日において残存する期間」としていたのを改め、第一〇一条の規定の適用を原則とすることとした(これにより、一部の演奏歌唱・録音物については著作隣接権による保護が復活するケースが生じうる。例:昭和三十五(一九六〇)年に死亡した我が国の実演家が昭和二十五(一九五○)年に行った実演については、改正前は平成二(一九九○)年末でその保護が満了していたが、改正法の施行後はその施行日から平成十二(二○○○)年末までその保護が復活することとなる)。
 なお、今回の改正は、改正法の施行後にこれらの実演等を利用しようとする場合に、権利者の許諾を必要とすることとなるというものであって、自由利用が可能であった過去の時点での利用行為に伴う使用料の支払い等を遡って認めるようなものではない。
 また、今回の改正に関連し、米国及びECからは「セルオフ期間」(*)の設定の要望を受けていたが、これについては、TRIPS協定に対する我が国の解釈上、平成六年改正法は同協定に違反するものではなく、従って適法に複製されたものについてその頒布を禁止すべき国際法上の理由はないこと、また、平成六年改正時にもこのような措置を採っていないことから、今回の著作権法の改正事項とはならなかった。従って、WT0加盟国に係るレコード(昭和四十六(一九七一年前のもの)を音源とするいわゆる「廉価盤CD」については、今回の改正法の施行後に著作隣接権の処理を行うことなく新たに製作することはできないが、施行前につくられた複製物については改正法の施行後もなお頒布が可能である。

(*)具体的には、我が国が平成六年改正法を施行した平成八(一九九六)年一月一日以降に複製されたWT0加盟国に係るレコード(一九四六〜一九七O)の複製物の頒布を原則禁止とし、例外的に一定の期間(売り尽くし期間)内についてのみ当該複製物の頒布を認めるという措置。


(2)民事上の救済規定の整備及び罰金額の引上げ

 民事上の救済規定の整備については、これまで、著作権等を侵害された者の権利救済に資するため、第一一四条の規定(損害の額の推定等)を設け、著作権等を侵害した者が当該侵害の行為により利益を受けているときは、「その利益の額」=「当該著作権者等の権利者が受けた損害の額」と推定することとされている。
 しかし、著作権等の権利を侵害した者が当該侵害の行為により受けている利益の額を被害者において立証するのは容易ではない。現在の情報化の進展等にも鑑み、これに伴う法的紛争の円滑な解決及びその未然の抑止のため、特許法等の他の知的所有権法制にならい、損害立証書類提出命令規定を新設することとした。(第一一四条の二関係)
 この第一一四条の二の規定の対象となる書類については、他の知的所有権法において第一一四条の二に相当する規定に問する裁判例によれば、売上帳、仕入帳、受注伝票綴、発注伝票綴等の書類の提出命令が認められており、第一一四条の二の規定についても同様の書類が対象となりうると解される。
 また、同条のただし書に基づき、当該書類の所持者において提出を拒むことができる正当な理由については、上記と同じ裁判例によれば、文書を所持していないこと等が該当するものと解されており、第一一四条の二の規定についても同様の事由が該当しうると解される。
 なお、第一一四条の二の規定については、新民事訴訟法の考え方にならい、改正法の施行前に提起された訴えについても改正法の施行後は、これを適用できることとし、特段の経過措置を設けていない。
 一方、罰金額の引上げについては、昭和五十九年に現行の「一○○万円以下」として以来、十年以上が経過しており、また、他の知的所有権法制の刑と比較して均衡を欠いていることから、罰金額の上限を「三○○万円以下」に引き上げることとした。(「三○万円以下」は「一○○万円以下」に、「一○万円以下」は「三○万円以下」に各々引き上げることとした。)(第一一九条から第一二二条まで関係)


(3)写真の著作物の保護期間の延長

 写真の著作物の保護期間については、従来、国際的に公表時起算の場合が多く、また、写真の著作物については、著作者名の表示を欠く場合が多かったこと等から、現行法制定の際に、一般の著作物と異なり、その保護期間を「公表後五十年まで」とする特例が設けられた。
 しかし、現在はその保護期間を著作者の死亡時起算とする国が多くなったこと、WIP0(世界知的所有権機関)において検討されていた新条約(昨年十二月に採択)においてもその保護期間を「著作者の死後五十年まで」とすることとしていたこと、さらには従来課題とされていた写真の著作物の著作者の氏名表示率も高水準化してきたこと等を踏まえ、写真の著作物に係る特例を廃止し、その保護期間を一般の著作物と同様に「著作者の死後五十年まで」に延長することとした。(第五五条関係)
 なお、写真の著作物については改正法の附則第二項及び第三項において経過措置を設けた。
 第二項では、著作物の保護に関する旧著作権法以来の原則に則り、改正法の施行前に著作権が切れている写真の著作物については、新たに「著作者の死後五十年まで」とする保護を与えないこととした。
 また、第三項では、例えば、著作者の死後に公表された写真の著作物のように、従来の「公表後五十年まで」とする保護期間の終期のほうが「著作者の死後五十年まで」とする保護期間よりも後に到来する場合については、従来の期待権を維持する観点から、改正前の保護期間による保護を与えることとした。


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