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覆面バンド・AGHARTA(アガルタ)は、“もし角松敏生や名うてのスタジオミュージシャンたちが名前を隠して新人バンドとしてインディーズで出したら話題になるかなぁ”っていう試みだったんです。でも事前に自分だってことがばれて、初回の1万枚がすぐ売れちゃいました。一見失敗だったんですが、誰が言い出したのか、NHKの「みんなのうた」にアガルタを持っていったら面白いんじゃないかっていう話になって。それで番組のプロデューサーと会ったら馬が合って、何か作りましょうってことになった。コンセプトは“アフロブラジルのプリミティブなレアグルーブで大人の男がユニゾンで野太い声で歌っている。それでいてメッセージは広いもの”。それで生まれたのが『ILE AIYE〜WAになっておどろう』です。そしたら「みんなのうた」で火が付いた。特に子供とお年寄りの反響がすごかった。ちょうど長野冬季オリンピックが開幕間近だったので、この曲をテーマ曲にっていう意見がたくさん局に来ちゃった。その声がオリンピック委員会に届いたものの、メインテーマはもう決まってる。それで「スノーレッツ」というキャラクターのテーマソングということになったんですが、最終的には『WAになっておどろう』一色になっちゃった。あの曲自体には何の仕掛けもしてなくて、曲だけの力であそこまでのしていったわけですから、こんなこともあるんだなぁと思いましたね。
オリンピックの組織委員会からアガルタに閉会式の出演オファーが来た時、事前に録音した音に合わせて演奏しているフリをするという条件がついていました。放送事故が起きたらまずいと。でも僕は、生演奏じゃないと絶対に盛り上がらないと主張したんです。周りのスタッフも熱心に働きかけてくれて、最後には演出担当の浅利慶太さん(劇団四季代表)が「僕の演出は花火まで、そのあとはご自由に」と言ってくれたそうです。それで花火の間にステージをセットして終わった瞬間に演奏を始めたら、その途端に選手たちがわぁーっとステージを囲んで、これぞ閉会式って感じになりました。あれは生演奏だからこそできたことだと確信しています。
“長万部太郎”の由来ですか?僕、由利徹さんのファンなんです。「おしゃ、まんべ」ってギャグあったでしょ。当時角松敏生は凍結中だったのでペンネームで出したんですが、そのおかげで『WAになっておどろう』と角松敏生が結びつかない(笑)。角松敏生にしておけばよかったなぁと今は思います。 |
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曲作りは基本的にメロディ先行ですが、ある程度詞のイメージがあって、この詞に対してはこのイメージだろうなって想定しながらメロディを作ります。オーソドックスですよ。いつもネタ帳持って歩いているとか、移動中や風呂入っているときに思い浮かぶとかは一切ないですね。宿題をやるように、作んなきゃって楽器の前に座って、いいと思うものが出るまでボーっとしたり、楽器を鳴らしたりして待つような感じ。出ないときは全然出ないけど、不思議と何かしら出てくるので、それを直筆で書き留める。楽器は主にピアノを使います。昔はギターで作っていたんですが、『Before The Daylight』(1988年発表)というアルバムの頃からコンピューターを使って打ち込みで作曲を始めたので、そのためにはどうしても鍵盤を弾かないとダメなんです。必要に迫られて始めたんですが、弾いているうちにギターよりも幅広く曲作りできることがわかったので、それ以来、鍵盤で作っています。飽きるとたまにギターで作ったりもします。その繰り返しです。
アルバム作りでは、ファンを喜ばせる、いい意味で期待を裏切る、そんなところでコンセプトを見つけて、アルバムの色や風景を最初に設定します。それから曲作りに入ります。今ではすっかり言われなくなった「コンセプトアルバム」の作り方です。最新作の『Cityligths Dandy』はイメージを夜景に特化して、自分と同世代の人たちの琴線に触れるものを、という考えで作りました。今の若い人たちの価値観は散漫になっていて、その中からひとつのポイントを決めていくのは大変なので、今回のようにマーケットを特化しちゃうのもありかなと思って。それでもし、CDを聴いた若い人の中にピンと来る人がいたらそれでいい。今回は特にマニアックに、“ソリッドでありながら複雑に考えられているもの”を目指しました。 |
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僕は自分の曲をほとんどネット配信していません。理由は音が良くないから。ただ最近は、アルバムへの導入部としてシングルを配信するのはありかな、という割り切りは持つようになりました。いい音で聴きたい人はCDを買って下さいっていうことです。
今CDが売れないのは、配信への移行というよりコピー文化が原因だと思います。配信している時点でコピーの元を配っている感じもするので、どうなのかなぁと思いますね。僕はみんなにCDをスピーカーの前で聴いてほしい。安いミニコンポでもいいんです。僕たちがレコーディングスタジオでああでもないこうでもないと何時間もかけて作っている環境に近い状態で聴いてもらえないと、自分たちのやっていることの意味がなくなってしまいますから。
今後の目標は、角松敏生の作る楽曲の何かが、『WAになっておどろう』のように日本中の人たちに届くようなことがあればいいなと思います。今まではとにかく自分の好きなことをやり倒していただけなので、角松敏生の音楽として語り継がれていくようなものをどうやって作るか、何かを達成するということを意識していきたい。それはエンターテインメントであれば映画でも舞台でもいいし、あるいは誰かに提供した楽曲でもいい。 |
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若い人に言いたいことは、音楽はひとりで作るものじゃないっていうことかな。今はコンピューターを使えば何でもひとりでできてしまうので、“人”が感じられない音楽が多い気がするんですが、やっぱり、他人と奏でるということは忘れないでほしい。バンドだったらゲストミュージシャンを入れてみるとか。音楽で他人とコミュニケーションする、コミュニケ―ションツールとしての音楽っていう部分をなくさず、コンピューターはある程度の目安にだけ使い、人間の体温のあるやり方で音楽を作ってもらいたいと思います。 |
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アンケートにお答えいただいた方の中から抽選で5名様に、角松敏生さんの2010年コンサートツアー“Citylights Dandy”のパンフレット(サイン入り)を差し上げます。
※アンケートは、終了しました。 |
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