音人工房

JASRAC 日本音楽著作権協会

第6回 神前 暁

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Vol.3 「らき☆すた」で曲を量産できたことが職業作家としてやっていく自信に

神前さんが憧れている作曲家はどういう方ですか?

神前:菅野よう子さんは憧れてますし、若い方だと「進撃の巨人」の澤野弘之さん、あと僕が影響を受けたのは筒美京平さんとか、バカラック、ポール・マッカートニー、フレディ・マーキュリー。そういう超大御所の人たちはやっぱりすごいなと改めて思いますね。

劇伴を手掛けていらっしゃる方って、きちんと音大を出て理論的な作り方をしている人たちが大勢いらっしゃるじゃないですか?その中で勝負することの難しさを感じることはありますか?

神前:勝負するのは難しいですね。別に聴こえている音が違うわけではないんですけど、僕が耳で探して回らなきゃいけない「音の積み方」っていうのを彼らはもう技として知っているので。音楽を専門で習った人っていうのは早いですよね。僕はそこに辿り着くのに試行錯誤して、その答えを出さないといけないので。

例えばオーケストレーションとか、そういった理論を学ぶ機会というのはこれまでにあったんですか?

神前:なかったですね。それはいつもやろうやろうと思いながら、ズルズルときてしまいました。

今でも自分の中で足りない部分だなという感じが?

神前:はい。もう意識として。それこそもう全部ですね、和声、対位法、オーケストレーション。本当は全部先生から教わりたいぐらいです。本は持っているんですけど、なんとなく弾いてみて「あーそうだよな」っていう程度で終わってしまうんです。

逆にそういった人たちにこの部分では負けてないぞっていうところはありますか?

神前:難しいですね…。「芸大を出ると、曲が凝り固まる」っていう話をよく聞くんですけど、別にそんなことはないと思いますし。まぁ、対等に勝負できると言えば、メロディーですかね。音楽理論を学んでも良いメロディーの作り方は教えてくれないですから。

これまでの音楽活動の中でターニングポイントはいつでしたか?

神前:「らき☆すた」というアニメをやらせていただいた2007年ですね。

『もってけ!セーラーふく』ですね?

神前:はい。『もってけ!セーラーふく』がなんだかよくわからないままに大ヒットして。

「これまでにない曲を」というオーダーだったようですね?

神前:作詞家の畑亜貴さんとか、製作会社のプロデューサーの方とか、いろいろな方々のアイデアを全部詰め込んで作った曲で。この曲のおかげで『「もってけ」の神前さん』みたいな感じになってしまいました。そこから名前でお仕事をいただく機会が出てきて。作家って割と匿名性が高い仕事だと思うんですけど、その頃から名前が出ることに対する責任を感じだしましたね。

それは同時にプレッシャーでもありますよね。

神前:そうですね。あと「らき☆すた」のときは曲を量産した時期で、劇伴を80曲ぐらい作って、キャラクターソングも20曲ぐらい作ったと思います。田中公平先生と以前お話をしたときに「死ぬほど書く時期が一度は必要だ」と言われたんですけど、それが僕にとってあの年だったなと。その時期を超えてから、職業作家として苦しいながらも量産できるようになったかなと思います。

『もってけ~』を初めて聴いたときはすごい曲だなと思ったんですが、歌詞の当て方もすごいなと感じました。作曲家の視点から見て、あの曲の歌詞に対してはどういう感想をお持ちですか?

神前:いやーもう日本語でもないし、なんというか言葉の前衛芸術を見ているような気分でした。決してそれが音楽的じゃないかといえば、すごく音楽的で。不思議な感覚でしたね。冒頭の「曖昧3センチ」っていう詞からもう意味がわからないんですけど、歌うと気持ちいいっていう。「あ、そういう作詞法もあるんだ」っていうことを知りました。

『もってけ~』の作詞家の畑亜貴さんとは多くの作品でコンビを組まれていますよね?

神前:そうですね。「涼宮ハルヒ」のときからお仕事をさせていただいたんですけど、「ハルヒ」のときはいたって正統派な曲で。畑さんの詞はメロディーのよさを引き出してくれますし、作曲した本人よりもメロの解釈が素敵だったりします。やっぱり作曲をされる方の歌詞というのは独特のよさがありますね。

普段ご自身の作品の著作権について意識することはありますか?

神前:JASRACから分配額の通知が届いたときは、明細書を細かくチェックして「この曲はこんなに稼いでくれてるんだな」って。生臭い話ですみません(笑)。

神前さんは2009年6月にJASRACのメンバーになっているんですけど、何かきっかけがあったんでしょうか?

JASRACオリジナルキャラクター
「ジャスラ」のぬいぐるみと一緒に

神前:うーん…結構契約をするのが遅かったですね。人から紹介をされてJASRACに信託することにしました。やっぱり自分の曲をほったらかしって言ったら失礼ですけど、出版社さんだけに預けているのでは責任がいろいろなところに散ってしまいますよね。だから、それをちゃんと管理してくださるところにしようと。そして、しかるべき分配はいただこうということを意識して信託しましたね。自分が何を作ったかというのがきちんと残るので、自分の作品に対する責任感が高まりました。

音楽を通して今後やってみたいことを聞かせてください。

神前:今はオーダーありきで劇伴も歌モノも作るという、職業作家に徹しているんですけど、最近はオーダーではなくて自分が作りたいものを作ってみたいと思ってます。自分がやりたいことが何なのかよくわからなくなっていた時期もあるんですけど、「だったら一度オーダーの中ではなくて、好きなことをぶちまけてみたらいいんじゃないか」とアドバイスをされたことがあって。そうやって作ることで自分を客観視できるというか、「そうか。自分はこういうのが好きなんだな」というのがわかるんじゃないかと。

それは是非聴いてみたいですね。

神前:僕も聴いてみたいです(笑)。

最後にプロを目指す若いクリエイターの皆さんへのアドバイスをお願いします。

神前:いい音楽を聴いて、耳を育てるのがいい音楽を作る一番の近道だと思います。感性というか、音楽的な耳を育てるのが大事です。ビートルズのプロデューサーを務めていたジョージ・マーティンの「耳こそはすべて」というのは本当に名言だなと実感しています。

(2013年9月公開)

Information

  • STAR DRIVER輝きのタクト Songs & Soundtracks

発売中(2013年1月23日発売)
http://www.star-driver.net/music/index.html#st

  • 「猫物語(黒)」第一巻「つばさファミリー(上)」BD&DVD

(限定盤特典CD『perfect slumbers』(つばさファミリー主題歌)/劇伴音楽集収録)
発売中(2013年3月26日発売)
http://www.nekomonogatarikuro-anime.com/pkg/index.html

  • 「猫物語(黒)」第二巻「つばさファミリー(下)」BD&DVD

(限定盤特典CD『消えるdaydream(河野マリナ)』(エンディングテーマ)収録)
発売中(2013年4月3日発売)
http://www.nekomonogatarikuro-anime.com/pkg/02.html

  • 上坂すみれ/「波打ち際のむろみさん」OP主題歌『七つの海よりキミの海』

発売中(2013年4月24日発売)
http://www.starchild.co.jp/artist/uesakasumire/release/

  • 「物語シリーズ」セカンドシーズン

TOKYO MX、tvk等で放映中(神前さんは主題歌と劇伴を担当しています)
http://www.monogatari-series.com/2ndseason/music/index.html
http://www.monogatari-series.com/2ndseason/staff_cast/index.html

  • 河野マリナ/「物語シリーズ」ED『その声を覚えてる』

2013年10月9日発売
http://www.kawanomarina.com/

  • 「猫物語(白)」BD&DVD

(特典CD「chocolate insomnia」(つばさタイガー主題歌)収録)
2013年10月23日発売
http://www.monogatari-series.com/2ndseason/package/index.html

Present

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※応募は締め切りました。たくさんのご応募ありがとうございました!

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