音人工房

JASRAC 日本音楽著作権協会

第6回 神前 暁

  1. Vol.1
  2. Vol.2
  3. Vol.3

Vol.2 歌モノの楽曲は毎回「これが最後になるんじゃないか」という気持ちで作っている

アニメ音楽とゲーム音楽の違いはどんな点ですか?

神前:いろいろあるんですけど、一つはアニメ音楽の場合はどの曲をどの場面で使うかを音響監督さんに委ねるところですね。ゲーム音楽だと具体的にこのシーンで使うというのを企画の人と話しながら1曲1曲当てはめていく感じなんですけど、アニメだとリストをもらって、汎用的な曲として作るので、シーンの想定とかをイメージするのが難しいですね。一般的に劇伴を制作するときには映像のない状態ですので。アニメに関わらず劇伴は絵を際立たせるのが基本だと思うんですけど、「ハルヒ」の劇伴を手掛けた当時を振り返ると、自分としてはそれができていなくて。結構1曲1曲どれも曲単体として目立つような作り方をしてしまっていたなと。ヘタをすると曲が浮いてしまうような作り方をしてたなと思いますね。そのへんはやはりまだノウハウがなかったですね。

実際にアニメをご覧になって、ご自身の曲がどうマッチしてるかチェックされるわけですね。

神前:冷や汗がでることもあります。逆にばっちりハマったときは「やった」と。やはり劇伴は絵とのマッチングが重要ですね。

1つのアニメ作品で何曲ぐらい作ることが多いですか?

神前:1クールのものだと、だいたい50曲弱ですね。

毎回それだけの曲を作って、煮詰まったりすることはないんですか?

神前:毎回煮詰まってます(笑)。本当に。フッと曲が降りてくるとか、そういうタイプではないですね。それでも劇伴に関して言えば、とりあえず手を動かさないとっていう感じで作っているんですけど、歌モノは毎回これが最後の曲になるんじゃないかと思いながら作ってます(笑)。もうこれ以上書けないんじゃないかと。歌モノはメロディーが一番大事だと思っているので、絶対にいいメロディーを作りたいんですけど、それってもう理屈とかではなくて、かといって才能とかでもなくて、いかに絞り出していくかなんです。だから本当にできるかどうか毎回不安です。

いつもメロディーが湧き出ているのかと思っていたので、「毎回煮詰まる」というのは意外でした。

神前:湧き出ないです(笑)。ナムコにいた時代には歌モノは数えるほどしか作らなかったので、自分が職業作家として歌モノで活動していくとは思ってなかったですしね。「涼宮ハルヒの憂鬱」の挿入歌として『God Knows』という曲をやらせていただいたんですけど、「劇中歌なので、劇伴担当の作家さんで」ということでオファーをいただいたのであって、決して僕が歌モノが得意だからというわけではありません。今いろいろな歌モノを書かせていただいているのは、ちょっとビックリです。

煮詰まったときの気分転換の方法は?

神前:気分転換は…寝たり(笑)。環境を変えて仕事場で作っていたものを自宅のピアノで弾いてみるとか。あとはシャワーを浴びていると、雑音がザーっとなっている中に音楽が流れているような気がして、「あ、これだ」みたいなことがたまにありますね。

作曲をされるときは具体的にどのような方法で作られているんですか?

神前:手段で言うと、パソコンとキーボードを使って打ち込みで作っていくというのが基本ですね。起きている時間はほとんどパソコンに向かってます。メロディーを作るときは、一番初期の段階ではICレコーダーを回しっぱなしにしてピアノで弾き語ったりして、「あ、今のいいな」と思ったら録音を止めて聴き返してみて。それをもとにどんどん膨らませていく感じです。

楽曲制作の方法は昔から変わらないんですか?

神前:シーケンサーを使って打ち込みで作るという部分は変わらないんですけど、昔は割とテクスチャーと言いますか、アレンジ先行型だったんですね。「こういう曲を」って言われたら、まずそういう音色を作ってから、ドラムを打ち込んでコードも決めて、そのうえでメロディーをいじり回すというタイプでした。結構そんな期間が長かったです。ナムコにいるときもそうでしたし、「涼宮ハルヒの憂鬱」ぐらいまではそういう作り方をしていたと思います。

今はそれが逆になったと?

神前:完全に逆とまでは言えないんですけど、シンプルにピアノで弾き語ったりして、まずメロディーから作り始めることが多くなりました。

そうしたのは何か心境の変化とかがあったんですか?

神前:歌モノを作る機会がだんだん増えていったときに、弾いたり打ち込んだりするだけでは歌の感覚っていうのがわからなくて。鍵盤だとどうしても「♪ソソソソ~ソソソ~♪」みたいな同音連打の曲とかを怖くて作れないんですね。それが歌いながらだと簡単に抵抗なく出てくる。そういう作り方をしたほうがより歌心が出るかなと。あと、アレンジはだいたいこういう感じでとイメージしながら作れるようになってきましたね。

作曲をするうえで大切にしていることはどんなところですか?

神前:「一晩寝かせる」ことです。というのは、ある程度曲を作り込んでいくと客観性がなくなってきて自分の耳が慣れてしまうんですね。だから、次の日起きて、メロディーもある程度忘れているときに昨日作った曲をパッと聴いて、嫌な引っ掛かり方をする場所があると、そこは修正すべきポイントなんだなって。第三者チェックを自分でしているような感じですね。

音人アイテム -OTOBITO ITEM-

神前さんの創作活動に欠かせないアイテムをご紹介!

ICレコーダーですね。昔はテレコを使っていたんですけど、今はiPhoneのボイスメモを使ってます。あとは、願掛けみたいなもので「レッドブル」(笑)。スタジオに行くときは「レッドブル」をとりあえず買って入ってます。

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