音人工房

JASRAC 日本音楽著作権協会

第3回 中塚武

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Vol.3 進化した日本のクラブカルチャーへの違和感

今では中塚さんが主催するライヴも継続的に開催されていますが、ライヴの魅力はどういうところですか?

中塚:よく言われることですけど、ライヴは毎回違うものですよね。僕、落語とか好きなんですけど、落語もそうですね。同じ演目をやってても全然違う。観ている方からすれば、あの毎回違う感じが魅力なんですよね。でも、演奏する側はいつも完璧にしたいから、いつも違っちゃ困ると思ってやってるんですよ。その誤差が好きなんですよね。僕は自分のライヴの同録とか聴くの大嫌いなんです。だって絶対不完全だから。でも、逆に自分が嫌いな部分を好きと言ってくれる人もいて。その誤差こそがライヴの醍醐味だなと思うんですよね。

たしかにお客さんはCDの音とは違うライヴ感を求めて来ますよね。

中塚:僕は全部を完璧に創りこむことが好きなんですけど、ライヴのときはそれがなかなかできないから、本当困るんですよね。だから、ライヴのときはライヴの到達点を練習の中で見つけるんです。僕のライヴを観に来る人は「あ、コイツはいま楽しそうに弾いてるけど、本当は苦悶してるんだろうな」って思える、S気質の人のほうが僕のライヴを楽しめると思います(笑)。

DJとしての活動は?

中塚:昔はすごく好きだったんですけど、今はほとんどやってないですね。バンドで活動しているときは海外でデビューしたので、海外ツアーがたくさんあって。もともとDJには興味なかったんですけど、オーストリアのあるお城を借り切って、お城の中のいろいろな部屋をライヴブースやDJブースにしたりして一晩中盛り上がるようなフェスイベントに何回か呼ばれたことがあって。その時に、とあるDJがいて、僕らがライヴやった次に出演したDJだったんですけど。僕らのライヴはお客さんがワーっとなってたんですけど、DJになると1時間、2時間演奏するのが当たり前なんで、ライヴの後って一旦お客さんがハケちゃうんですよね。で、そのDJはお客さんが誰もいない中、ただリズムが入っているだけの曲をずっと流し続けているんですね。僕は自分たちのライヴが終わった後、他のいろんなブースに遊びに行ってたんですけど、朝の6時半ぐらいにそのDJがやってる部屋に戻ってみたら、お客さんが超満員になってたんですよ。でも、そのDJは全く変わらず、ずっと淡々とやってて。それ見てね、このストイックさはカッコいいと思って。それで、DJやりたいなと思って始めたんですよね。

今はDJをやらない理由があるんですか?

中塚:僕がDJをやり始めてから何年か経った後、日本ではクラブっていう場所が一般的になって、クラブカルチャーが進化していったんですね。それは、誰だかわからないDJが、誰が創ったかわからない、聴いたこともないような曲を淡々と繋いで大きなうねりを出すっていう僕の好きなタイプの文化ではなかったんです。キラーチューンとか、フロアアンセムっていう、水戸黄門でいう助さん格さんが印籠を出すシーンみたいな曲が、盛り上がりの佳境に起承転結のように流れるっていう日本でのクラブイベントに接し始めたときに、「あ、ここにはもう僕がやりたいことはないかな」と思ったんですね。もちろん、それはそれで楽しいんですよ。ドッカンドッカン盛り上がるし。でも、僕はもうそこにいなくていいかなと思ったんですね。

いろいろな想いがあったんですね。

中塚:そう。今は自分の曲を自分の身体で演奏するほうがストイックで楽しいかな。

著作権については日頃どのような意識をお持ちですか?

中塚:僕らの世代は、やっぱりサンプリング(既存の楽曲の一部を引用して、新たな楽曲を創作する表現方法)世代なんですね。こういう曲の創り方は、それはそれで本歌取りの面白さはあるんですけど、やっぱり結局のところ他人の意匠を借りるので、自分自身の中だけで構築されたものとは別の面白さだと思うんですね。僕はサンプリングが面白いと思っちゃった世代だからこそ、きちんと区分けして自分の頭と心に入れておかないといけないと思ってるんですよ。僕らよりもっと上の世代は、サンプリング行為に対するモラルがあったと思うんですけど、僕らの世代以降は、ある意味モラルハザードが起こってるはずなので。過去の歴史としては仕方ないかもしれないし、もちろんそれらもすごく面白いことなのだけれど、最低限のモラルを崩しちゃいけないと思うんですね。

中塚さんは2006年10月にJASRACのメンバーになっていますが、何かきっかけがあったんですか?

中塚:JASRACに入るのは遅かったんです。僕ね、自分が(JASRACに)入れると思ってなかったんですね。入会するのってハードルが高いイメージがあったし。でも、そのときに所属していた事務所の人から、「あなたちゃんとしなさい」って言われて(笑)、入会の申込みをしたんですよ。事務所に入る前に自分だけでやってた最初の時期は、どうしていいかわからないことが結構あったんですよね。今はパソコンでパンっと曲が創れて、配信も自分でできるでしょ。だから、もしかしたら著作権にまつわる作業とかもなあなあにしてしまっている人も多いと思うんですよね。そういう人にきちんと自分の権利を守ることの大切さを知らせてあげたいですね。

最後に音楽を通じて今後やりたいことを教えてください。

中塚:やりたいことは山ほどあるんですよ。今の企みは…ちょっとお金がかかるんですけど(笑)、全く新しい形式のライヴで面白いことをしたいなと思ってます。お客さんがリスナーとしてだけじゃなくて、一緒にその場で何かに参加できる形式で。“参加型”って言葉にすると簡単なんですけど、いざ本格的にお客さんと一緒に曲を創るっていうのは相当難しいんですよ。でも、実は今いろいろとアイデアがあって、チームを組んで一生懸命作っているんです。それが早く実現できればいいなと思ってます。

(2012年3月公開)

Information

『The Chocolate Factory』

中塚武、eli (ex.Love Tambourines)、Small Circle of Friends、P.O.P ORCHeSTRAとのコラボアルバムをiTunes Store限定リリース。
公式HP上の新曲無料配信サービス『TAKESHI LAB』開設中。
詳しくはオフィシャルHPへ。

Present

こちらのアンケートにお答えいただいた方の中から抽選で5名様に中塚さんのサイン入りCD(『ROCK’N’ROLL CIRCUS』)をプレゼントいたします。

※応募は締め切りました。たくさんのご応募ありがとうございました!

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