音人工房

JASRAC 日本音楽著作権協会

第2回 KOKIA

  1. Vol.1
  2. Vol.2
  3. Vol.3

Vol.2 絵を描くような曲作り

ここからは創作活動についていろいろとお伺いします。作曲は小さい頃からされていたということですが、作詞はいつ頃から?

KOKIA:覚えている限りで・・・記憶があるときにはもう書いていた感じがします(笑)。作詞は、言葉を話すことができれば、誰でも詞を書いたり、想いを綴ったりできるものだと思うので、その分とても難しいです。音楽人の私にとっては曲を書くことよりも、作詞をすることのほうが難しいように思います。私にとって音楽とは言葉と同じようなものなので、悲しい日には悲しい曲を書きましたし、うれしいときにはその想いを綴る歌を書きました。言葉では表現しきれない部分を音で表現してきたところがあるので、歌詞を書くのは本当に難しいです。ですから、シンプルな言葉を使っているけど、それ以上表現したい部分をメロディーに託して曲を書く。日記代わりに創作活動を始めたところもあります。今でもそうですね。仕事とは別に自分の気持ちを残すための曲を書いたりもしています。それは私の中で人に聴いてもらうための歌とは完全に違う作品集として残しているんです。気が向いたらデジカメを回して、ワーっと歌って。で、日付でファイリングをして。

デジカメを使う理由は何かあるんですか?

KOKIA:とっても簡単だし、後で見ておもしろいですよ(笑)。そのとき何を着て、どんな状況で録ってたかってわかるじゃないですか?

そのときの空気感も思い出すことができると。

KOKIA:そうですね。何年か前のファイルをたまに見たりすると、「あー私変わったなぁ」とか、いろんなことを感じます。あるときはウォーウォー泣きながら歌ってる映像もあるんですよ。一体どうしたんだろうっていうぐらい。きっと悲しいことがあったんですね。でも、後から見るとすごいおもしろいです。もちろん、誰にも見せられないですけど(笑)。自分のプライベート日記の代わりにデジカメで始めた歌日記。以前は思わなかったのに、今見るといいなと思う曲なんかも結構あって、それを引っ張り出してきて、肉付けして曲作りに活かすときもあるんですよ。

普段曲作りはどのようにされているんですか?

KOKIA:私の場合、五線紙を使ってちゃんと書くという形ではあまり曲作りをしないんです。音楽学校を出ていることもあって、しっかりとおたまじゃくしと仲良くしてそうなイメージを持たれるんですけど。もしかしたら、譜面に書かないのは珍しいかもしれないですけど。歌と音が割と同時に出てくるので、五線に残さなくても言葉、歌詞を綴るだけで、あまり音符には残さないんです。もちろん今はミュージシャンとして仕事をしているので、自分のアルバム作りとは別にお仕事をいただいて、オーケストラとか多重もののコーラスワークの曲とか、ちょっと作り込んだ曲を書かなくてはいけない場合には楽譜に残しますけど、自分のオリジナル作品を書くときはあまり五線を使うことはないですね。いい例えかわからないですけど、どちらかというと構築していく音楽というよりは、絵を描く感じで曲を書いている印象があります。何もないところから音にしていく、曲を書くっていうのは目に見えない作業なので、みんなに不思議がられることがありますけど、私は絵を描くのとすごく似ているように思っています。旋律はスケッチ、デザイン画で、色を付けていく作業はハーモニーを付けていくような感じです。祖母が絵をたくさん描いてた人で、私も小さい頃から一緒に並んで絵を描いてました。もしかしたら絵を描きながら曲を書いていくっていうのは、その頃から一緒に育っていったのかもしれません。なので、今でも私は曲を書く前に必ず頭の中でまずイメージ、色、形、風景、物語のようなものを想像して、立体的なものが固まってから歌にするんです。

映像みたいなものが見えるんですか?

KOKIA:そうなんです。曲を闇雲に作り出すのではなく、映像や色をイメージしてから作り出すというのは私にとって大事なことです。それから、曲作りをする環境。必ず事前にするのは、掃除です(笑)。音波(おとなみ)と向き合えるように、きれいな状態じゃないとなんだか集中できないんです。曲を作るときは、まず家の掃除をします。

歌を人に伝えるために大切にしていることや、こだわっていることはありますか?

KOKIA:誰でも心のどこかに悲しみや切なさを抱えて生きていると思うんです。そうしたちょっと切なかったり、悲しかったりしたときに、人に寄り添って力になれるような歌を歌っていきたいって思っています。そこから抜け出す、前に進む答えはその人自身が見つけるしかないんだと思うんですけど、それをちょっと後押ししてくれるような歌を歌っていきたいです。もちろん歌を通して自分自身も一緒に成長していきたいなと思ってます。

KOKIAさんの楽曲のアレンジは、ピアノやギターを中心としたシンプルなアレンジの曲が多いなと感じました。先ほど「もぎたてをそのまま届けたい」というお話がありましたが、そういうところを意識してアレンジも考えている部分があるんですか?

KOKIA:私にとってステージも、CDにするための音源制作も両方とも大事な場所です。CDでは再現できてもステージで生で再現できない音楽は特別な企画でない限り、あまり作りたいと思っていません。やはり、生で聴いてもらったときにCDで構築しすぎると、全然違うものになってしまうというのはあまりよくないなと思ったんです。ステージは私にとって一番大事な場所です。ですから、ステージで違和感なく再現できる音楽を作るように知らず知らずに心掛けているのかもしれません。

ご自身の作品で特に思い出深い作品はありますか?

KOKIA:うちの祖父が亡くなる直前に書いた『ぬくもり』という曲です。アルバム「aigakikoeru」に入っている曲で、祖父が寝たきりになってしまったときに親族みんなでよく病院に交代交代に行ってたんですけど、ある日みんながご飯を食べに行っている間、私と祖父2人きりになったときがあったんです。そのとき、祖父の寝息を聞きながら枕元でふいに「すごくいい曲浮かんだかも」と思って、病院にあった紙と鉛筆でワーっと走り書きして出来た曲なんです。家に帰ってレコーディングして、音源にして病院で聴かせてあげようと思っていたんですけど、聴かせることができないまま祖父は亡くなっちゃったんですよ。そのとき、ちょうどアルバムのレコーディングをしていた私はその曲を祖父と私の思い出に・・・っとアルバムに収録するために改めてレコーディングをしたんですけど、祖父が息づいていたときの感じのテイクに比べて、亡くなった後にレコーディングしたテイクは、ちゃんとした環境でレコーディングしたはずなのに、なんかこうしっくりこなくて。結局デモで作った最初のヴァージョンをそのままアルバムに入れたんです。この曲は歌う度に、あの空気感を自分の中で感じれるものがあって。みんな体験したことがある感覚だと思うんですけど、歌っていると光の中にいるような感じとか、天国と交信できたかもっていう瞬間とかを感じるときがあるんですね。目には見えない、でも確実に感じることのできるものを感じられる、そんな曲です。

音人アイテム -OTOBITO ITEM-

KOKIAさんの創作活動に欠かせないアイテムをご紹介!

KOKIA:うちのキーボードとパソコン、あと白い紙と鉛筆です。紙はこだわりがあって真っ白な紙じゃないと駄目なんです。線が入っていたり、五線が入っているとまったく駄目。キャンバスと一緒で、何もないところに自由に書いていきたいんですよ。私はすごく紙を使うので、マネージャーさんが気を使ってくれて「これ使ったらどう?」ってコピーで失敗した紙を渡してくれるんですけど、裏に何かが透けて見えている時点で創作意欲がゼロになるわけですよ(笑)。もったいないですけど、真っ白い新しい紙じゃないと、なんだか創れないんです。あと、映画を観に行ったり、誰かのライブを観させていただいている最中に曲が生まれるときがあるので、エンターテイメントに触れる瞬間には紙と鉛筆が欠かせないですね。
あと、欠かせないのが愛犬たちの存在です。もう癒しです(笑)。中でもティーダちゃんっていう名前のワン子は、今では私のブログに登場する回数が一番多い顔なじみさんです。沖縄の言葉で「太陽」っていう意味なんですけど、ティーダちゃんと呼んでも全く来ないので、愛称がティッティになりました。

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