一般社団法人日本音楽著作権協会 JASRAC

About Us 戦時加算義務の解消に
関する取り組み

日本は、一部の外国作品の著作権保護期間を約10年延長しなければならない「戦時加算」義務を負っています。
JASRACは、日本にのみ一方的に義務が課せられ、著作権の保護期間の算定を困難なものにしている「戦時加算」の問題が早期に解決するよう、日本政府に働きかけるとともに、各国の著作権管理団体に対して戦時加算の権利を放棄するよう求めて、さまざまな活動を行っています。

著作権の保護期間に関する戦時加算とは?

著作権の保護期間に関する戦時加算とは、戦時に相当する期間を、通常の著作権の保護期間に加算することで、戦争により失われた著作権者の利益を回復しようとする制度のことです。
第二次世界大戦後の1951年9月8日、日本の戦後処理の基本を定めたサンフランシスコ平和条約が、日本と連合国との間で署名されました。日本の戦時加算は、連合国および連合国民の著作権に対し、日本だけが負う義務として、この条約に規定されています。

戦時加算の対象となる著作物 加算される期間
サンフランシスコ平和条約を批准した連合国およびその連合国民が、 1941年12月7日(日本が参戦した日の前日)に著作権を有していたもの 日本が参戦した日(1941年12月8日)から各国の平和条約が発効した前日までの期間
サンフランシスコ平和条約を批准した連合国およびその連合国民が、 1941年12月8日(日本が参戦した日)から、当該連合国について平和条約が発効した日の前日までに著作権を取得したもの 著作権を取得した日から各国の平和条約発効前日までの期間

戦時加算対象国および戦時加算日数一覧

戦時加算の問題点

(1)日本にのみ一方的に課せられている義務

戦時加算は、戦争による著作権者の逸失利益の回復を目的に、ヨーロッパにおいて自国の立法政策として始まった制度であり、敗戦国が条約による義務として負う性質のものではありません。

そもそも、戦争により著作物の正当な利用がなされず、著作権者の利益が損なわれた状況は、交戦国双方に共通しているはずです。第二次世界大戦後、イタリアなどが連合国と締結したパリ平和条約では、戦時加算は双務的に行うものとして規定されました。

しかしながら、サンフランシスコ平和条約においては、戦時加算が片務的な義務として日本だけに課せられており、連合国については具体的な義務を負わず、「各国の一般的事情が許す限り日本国に有利に取り扱うことに同意する」(同平和条約第14条2項(V))と規定されているにとどまっています。

同じ敗戦国であるドイツについても、実質的な戦時加算義務を負うことはありませんでした。
日本だけが条約に基づき一方的に戦時加算義務を課せられているのであり、この状態は国際的に極めて異例といえます。

(2)戦時加算対象であるかどうかの判断が困難

前述の戦時加算特例法により、戦時加算の対象かどうかは、著作者の国籍だけで単純に判断できず、作品ごとに確認する必要があります。作品の創作時期、第一発行地、国境をまたぐ著作権譲渡の有無などによって、作品ごとに異なるからです。同一の著作者の作品であっても、すでに著作権が消滅している作品と戦時加算により著作権が存続している作品があるため、利用にあたっては注意が必要です。

このように戦時加算は、本来明確に計算できるはずの著作権の保護期間の算定を困難なものにしています。

戦時加算問題の解決に向けた活動

JASRACは、戦時加算問題が早期に解決するよう、政府へ積極的に働きかけるとともに、国際会議において各国の著作権管理団体へ呼びかけるなど、さまざまな活動を行ってきました。現在も、戦時加算義務の実質的な解消を実現するため、各国の著作権管理団体に対し戦時加算の権利を放棄するよう求め、協議を継続しています。JASRACの活動を含む戦時加算問題に関連する動きは次の表のとおりです。

年月 戦時加算問題に関連する動き(表中の役職は、全て当時のもの)
2007年 6月 ブリュッセルで開催されたCISAC(著作権協会国際連合)の年次総会にJASRACから都倉俊一理事が出席し、戦時加算の問題について理解を求めるスピーチを行う。CISACはこれを受け、各国の著作権管理団体がそれぞれの会員に対し、この権利行使の凍結を働きかけることを全会一致で採択した。
2012年 4月 都倉俊一会長と菅原瑞夫理事長が、平野博文文部科学大臣を訪問し、「政策要望書」を提出。※1※2
2013年 2月 都倉俊一会長と菅原瑞夫理事長が、岸田文雄外務大臣を訪問し、「政策要望書」を提出。※1※2
2016年 2月 TPP協定交渉において、戦時加算対象国であるアメリカ、オーストラリア、カナダ、ニュージーランドとの間で個別に交わされた著作権の保護期間に関する書簡で、戦時加算義務への対処のため著作権管理団体の取り組みを奨励することおよびそれを政府間で後押しすることが確認された。
2018年 7月 日EU・EPA交渉において、対象国のイギリス、オランダ、ギリシャ、フランス、ベルギーとの間で上記TPP協定交渉の際に取り交わされたものと同様の書簡による確認が行われた。
2018年12月 TPP11協定の発効に伴い、TPP11整備法が施行され、日本での著作権保護期間は著作者の死後50年から70年に延長された。これに伴い、法的には保護期間70年に加えて戦時加算分が保護されることとなった。
  • ※1 この要望書において、JASRACは政府に対し、戦時加算の対象となる15カ国との間で個別に、戦時加算の権利を行使しないことの合意を得る二国間協定を交わすことを要望した。
  • ※2 戦時加算の根拠となっているサンフランシスコ平和条約は、全体で27条からなり、戦時加算に関する規定がその一部であるため、これだけを取り上げて条約の改正を行うことは極めて困難である。対象国との二国間交渉で戦時加算の権利を行使しないとの合意を得る方法も探ってきたが、解決には至っていない。

2022 年7月現在、以下10カ国13団体から戦時加算を放棄することの同意を得ています(五十音順)。

  • アメリカ ASCAP
  • アメリカ BMI
  • イギリス PRS
  • イギリス MCPS
  • オランダ BUMA
  • オランダ STEMRA
  • オーストラリア APRA
  • オーストラリア AMCOS
  • スイス SUISA(※)
  • デンマーク NCB(※)
  • ニュージーランド APRA
  • ニュージーランド AMCOS
  • ブラジル ABRAMUS
  • ベルギー SABAM
  • 南アフリカ SAMRO
  • SUISA(スイス)およびNCB(デンマーク)は、戦時加算対象国ではありませんが、対象の著作権者が当該団体に所属しており、放棄について同意を得ました。