作家で聴く音楽JASRAC会員作家インタビューvol9
森雪之丞
こちらで実施しているアンケートにお答えいただいた方の中から、抽選で3名様に森雪之丞さんのサイン入り詩集 「絶望を愛した38症例(サンプル)」をプレゼントいたします。
応募締切日:2003年9月30日
(プレゼントの応募は締め切りました。たくさんのご応募ありがとうございます。)
PROFILE
上智大学英文科在学中からジァンジァン等で弾き語りのライヴを始め、同時にプログレッシブ・ロックバンド『四人囃子』にゲスト・シンガーとして参加。大学中退後、1975年に作詞作曲家としてプロ・デビュー。
 シンガー・ソングライターとしては1977年、79年にソロ・アルバムをビクターから、また1986年には10年来の夢だった12人編成の劇的舞踏バンド『マイティ・オペラ』を結成、フォーライフよりシングル&アルバムをリリースする。作詞家として、シブがき隊、斉藤由貴、浅香唯などのヒット・チューンやアニメ主題歌に多くの作品を提供していたが、1989年に再結成した『サディスティック・ミカ・バンド』のリリカル・ワークを手掛けたことにより、ロックに於ける言葉の果てしない可能性とパワーを再確認、より先鋭的な歌詞の世界を築きあげる。その後、布袋寅泰、桑田佳祐、高橋幸宏、hide、氷室京介など多くのロック・アーティストから支持を受け、多角的なブレーンとしての作詞活動を続ける一方、1994年から実験的なポエトリー・リーディングのライヴ『眠れぬ森の雪之丞』を主催し、行動する詩人としても幅広く活躍中。
http://www.amuse.co.jp/yukinojo/
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森雪之丞写真
(主な作詞作品)
『POISON』『スリル』『バンビーナ』『DESTINY ROSE』布袋寅泰
『ダイヤモンド・ダスト』『Girls Be Glamorous』『Claudia』氷室京介
『Eyes Love You』『50% & 50%』hide
『愛をちょうだい』VANILLA
『堕天使BLUE』Λucifer
『宝石』山下久美子
『君たちキウイ・パパイヤ・マンゴーだね。』中原めいこ
『月の舟』池田聡
『NAI NAI 16』『100%...SOかもね』『ZOKKON命−LOVE−』シブがき隊
『悲しみよこんにちは』『白い炎』『砂の城』斉藤由貴
『C−Girl』『Melody』浅香唯
『I Don't Know』BaBe
『僕、笑っちゃいます』風見慎吾
 
アンダーグラウンドなロックからエンターテインメントの世界へ
1973年頃から渋谷のジァンジァンなどのライブハウスで弾き語りのライブを始めたのが、アーティストとしての第一歩です。その後、高校時代の友人がいた「四人囃子」というプログレッシブ・ロックのバンドにゲスト・ヴォーカルで参加して徐々に表現の幅を広げていきました。当時、自分の中ではキング・クリムゾンに作詞家でありながらメンバーとしてクレジットされていたピート・シンフィールドやエルトン・ジョンのパートナーだったバーニー・トウピンのような存在を意識していましたね。他にも、デビッド・ボウイや早川義夫さんのいたジャックスの歌詞に影響を受けましたが、人間のダークな部分を闇の中で燃える炎のように表現する世界観が印象的でした。
職業作家としてのデビューは、ザ・ドリフターズに書いた「ドリフのバイのバイのバイ」という作品です。メンバーに会う機会があって渡辺プロダクションの渡邊晋社長の御自宅に呼ばれたんですが、緊張のあまり失神して玄関で倒れてしまいました(笑)。アンダーグラウンドだったロックからエンターテインメントの大きな世界に入りかけたところでぶざまな姿をさらして落ち込みましたが、「雪之丞は倒れるまで詞を書く奴だ」ってことで逆に気に入っていただいて(笑)、その後キャンディーズやあいざき進也などの作詞を任されるようになりました。

1980年代に入ってからは、アニメソング(キン肉マン、ドラゴンボールZなど)のほか、シブがき隊や浅香唯などアイドルへの作品提供を本格化しました。特にシブがき隊の作品(「NAINAI 16」、「ZOKKON 命−LOVE−」など)では、日本語を歯切れ良く聴かせるために色々と斬新な試みを行いました。例えば、“〜でしょう”というフレーズを英語の“SHOW”に置き換えて日本語を英語ノリにしたり、韻の踏み方でスピード感を出したりする方法などいろんな実験ができた時期だったと思います。

過去に書いた作品にしがみつくのではなく、明日書くものが自分にとっての最高傑作
日本の音楽は、この40年間でサウンドだけでなく、歌詞の表現力も飛躍的に進化したと思っています。昔の唱歌や演歌を聴くと内容そのものには素朴な美しさや情緒がありますが、今の歌に比べて情報量が圧倒的に少ないし、言葉の使い方も稚拙な部分があるんじゃないでしょうか。40年間かけて僕を含めて多くの作詞家が努力した結果というのは、今の日本語ヒップホップが持つ表現力の豊かさに表れています。もう少し若かったら、自分でもヒップホップをやっていたと思いますよ(笑)。ヒップホップは、かつてのロックのようにアンダーグラウンドから生まれた音楽なので、若者が共感できる説得力や力強さを感じますね。僕にとってのロックやヒップホップは、音楽のジャンルを指すものではなくて、自らの魂のあり方や生き方を象徴するものなんです。

サディスティック・ミカバンドの再結成の時(1989年)、高橋幸宏の誘いで詞を手掛けたのをきっかけに、1990年以降は布袋寅泰、氷室京介、hideなど数多くのロック・アーティストと仕事をするようになりました。
ロック・アーティストとの付き合いは、特別に身構えるようなものじゃなくて、同じバンドの相棒みたいな関係でありたいと思っています。アルバムの制作期間は1年のうち3〜4ヶ月程度ですが、プライベートの時間も含めて色んな話をしながら創作をしていくので、1年中アイドリングされた状態です(笑)。その意味で、過去に書いた作品にしがみつくのではなく、明日書くものが自分にとっての最高傑作だという意識が強いですね。
気をつけないとすぐ老いぼれてしまいますが、やるべきことがたくさんあって前向きでいられるのは、アーティストとのコミュニケーションを通じて刺激を受ける部分が大きいからだと思います。

ポップ・ミュージックのきらめきを取り戻すためにもう一度原点に戻ることが大切
僕にとっての“ポップ・ミュージック”は、常に新しい要素を取り入れながら進化する存在なんです。ポップ・ミュージックの金字塔として語り継がれるビートルズも、インド音楽や新しい録音技術などを積極的に吸収しながら時代の扉を開けてきました。“ポップ”には、トンがった感性や王道ヅラしたものを含めてその時代の光が宿っていることが重要で、ヒットしたかどうかというのはあくまでも結果にすぎないんです。

1960年代に“ポップ”という言葉を初めて耳にした時はいろんな要素がモザイクされた「アート」な響きを感じましたが、今は音楽制作の現場でも既存の鋳型(いがた)に流し込むだけの作業が増えてきて、かつての「きらめき」みたいなものが失われている気がします。

「きらめき」を取り戻すためには、もう一度自分の原点に戻るべきなんじゃないかと考えるようになりました。僕にとっての原点は、詩や言葉です。今年初めに書き下ろしの詩集を出版しましたが、メロディに当てはめる歌詞作りと違って、言葉に正面から向かいあって何もないところからフレーズを紡ぎ出すことの面白さを改めて感じることができました。作曲家や歌手にしてもインスト・アカペラやアコースティックなどそれぞれの原点に戻ることで、新しいポップ・ミュージックを生みだすきっかけを掴むことができるんじゃないかなと思います。
天使は瞳を閉じて
ミュージカル
「天使は瞳を閉じて」
作・演出:鴻上尚史
音楽プロデューサー・作詞:
森雪之丞
出演 佐藤アツヒロ、天野ひろゆき、純名りさ、辺見えみり他
東京公演:ル・テアトル銀座 2003年11月6日〜11月30日
大阪公演:近鉄劇場
2003年12月5日〜12月10日

CD 氷室京介「FOLLOW THE WIND」
CD 氷室京介「FOLLOW THE WIND」2003.8.20 on sale!
TOCT-25095/Capitol Records
※ 先行シングル「Claudia」を含む全10曲に詞を提供したほか、1曲は詞の朗読で参加


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