作曲家のカッコよさに憧れた子ども時代
小さい頃からCMソングを友だちと歌って遊んだり、音楽が大好きでした。中学生になると当時ブームだったビートルズに憧れて、ギターをはじめました。彼らをまねて曲を作ってみんなの前でひいたら、すごくほめられて。テレビの歌番組に出ている作曲家もとてもダンディーでカッコよくて、いつの間にか「自分も作曲家になる」って心の中で決めていました。
夢が実現したのは、実はちょっとしたつまづきがきっかけなんです。大学時代にフォークソンググループを組んでデビューしたのですが、これが全くと言っていいほど売れない。そこで自分で歌ってダメなら、他のアーティストに曲を作って提供しようとレコード会社に売り込んで回りました。そして郷ひろみさんというアイドル歌手の曲を作るチャンスをいただき、歌謡曲やCMソングの依頼がどんどん舞い込むようになったんです。当時は頼まれるまま無我夢中で作りました。その後、子ども番組やアニメの仕事もいただくようになり、忙しくて大変でしたがとても勉強になり充実した毎日でした。
詞の世界を大切に、聴く人が元気になれる曲を!
子ども番組の歌もアニメの主題歌も、曲を作るときはまず詞を渡されることが多く、詞の世界をどう表現すればいいか、いつも頭を悩ませますね。完成まではだいたい2週間。最初は「ああしたいな」「こうしようかな」と曲のイメージを何となく思い浮かべて、「これだ!」と思ったタイミングでメロディーをコンピューターに打ち込んでいきます。
大切にしているのは、とにかくみんなが楽しめて、明るく元気が出るような曲作り。「プリキュアシリーズ」の主題歌は女の子が敵に立ち向かっていく強さを、「スーパー戦隊シリーズ」の主題歌は苦しくても負けない熱い気持ちを曲に込めるようにしました。
こだわりは、聴く人の耳にひっかかる「フック」を必ず曲の中に入れること。たとえば「クレヨンしんちゃん」の主題歌の「ぞーさん、ぞーさん」のくだりです。「面白いな」「変だな」と興味を持って、そこから曲全体を好きになってくれたらいいなって思っているんです。
作った曲が、人の成長とともに歩む幸せ
作った曲がテレビで流れてくる。子どもたちが口ずさんでくれている。それが今とてもうれしいです。特に子どもたちが大人になってもメロディーや歌詞を覚えているのを知るとジーンときます。カラオケで歌ってくれたり、演奏してくれたり。作った曲がさまざまなシーンで利用されながら、人々と共に歩んでいるのは本当に幸せなことです。
だからこそぼくは、できる限りクオリティーの高い作品を残していきたい。子どもだけではなく、お父さんやお母さんもいっしょに歌いたくなる曲。番組のプロデューサーやディレクター、同業であるプロの作曲家からも「いいね」と言ってもらえる曲。そんな質の高い曲作りに、これからもこだわっていきたいですね。
いつもアンテナを張り、時代や流行を意識する
街をぶらぶら歩いているとき、メロディーがパッと思い浮かぶことが多いですね。とりあえず鼻歌でスマートフォンに録音して、家に帰ってコンピューターで楽譜にしています。
作曲のための特別なネタづくりはせず、普段の生活を曲作りにむすびつけています。渋谷のようにいろいろな場所から音楽が流れてくる街を歩いたり、テレビをつけっぱなしにしておいて流行のメロディーにアンテナを張ったり。いつも時代を意識することを大切にしています。
またこれまでの経験を生かして、新しい曲をつくる場合もあります。「おしりたんてい」の主題歌は、これまで子ども向けのテレビ番組で体操曲を作ってきた経験から、振り付けが上手にできるようメロディーやテンポにこだわりました。こうして自分の得意技をいろいろな曲に応用するのも、曲をイメージするコツですね。
誰かを笑顔にした分、お金をもらう仕事
CDが売れた枚数やテレビで曲が流れた回数、カラオケで歌われたり、コンサートで演奏されたりした回数をJASRACに管理してもらい、その数に応じて「著作物使用料」というお給料のようなものをもらっています。ぼくの曲を聴いたり、使ったりして、みんなが笑顔になれたり、楽しい気分になってくれた分だけ、お金をもらうのが作曲家の仕事と言えるかもしれないですね。
正確に数えたことはないのですが、ぼくがJASRACに管理してもらっている曲は600以上もあるそうです。その一つ一つをどこで何回使われているのか自分でチェックすることはできないので、お任せしているというわけです。
作曲家が曲を作るためには、高価な楽器やコンピューターが欠かせません。そんなぼくらがしっかり働いた分のお金をもらい、安心して曲を作り続けるためにも、JASRACのようなパートナーがいるのはとても心強いですね。
ぼく自身も音楽著作権についてもっと知りたくて、JCC(JASRAC Creator’s Club)という勉強会を仲間の作家と立ち上げています。そこでは年に4回「作家のための著作権セミナー」を開くなど著作権の理解を深める活動をしています。