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デジタル時代に入ってから、メロディ作りやアレンジはパソコンを使って「デジタル」に作ることが当たり前になっていますが、歌詞作りは唯一の「アナログ」作業なんですよ。ボタンを押せば、過去のヒット曲に近いメロディを作ることはできるでしょうが、詞については、難しいですよね。松本隆さんが「はっぴいえんど」で試みられて以来、ロックやポップスに日本語をどうやってのせるかは、作詞家にとって大きなテーマだったと思うんです。
洋楽の場合だと8ビートや16ビートでも、「裏」のリズムがあって、歌詞も英語だと一音に対して一句の単語をはめ込むことが比較的スムーズにできると思うんですよ。その意味で、玉置さんや氷室京介さんのメロディは、洋楽っぽい裏のノリがあるサウンドなので、ことばの「ノリ」みたいなこともかなり意識しましたね。
また、玉置さんの書く曲はメロディが少ないので、普通に歌詞をのせようとすると少ない言葉しか盛り込むことができないんですよ。だから、例えば「しょうがない」という6文字を3つの音にのせた時にリスナーの耳にどうやって届くかみたいなことを試行錯誤しました。昔のアイドル系の歌手だと、メロディに対して歌詞のボリュームが多いと残念ながら歌いきれないこともあったんですが、日本でもヒップホップやR&Bが主流になって以降、うまく「ノリ」を出せる歌手が増えていると思います。
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昔はオマケや企画物っぽい位置付けだったベスト盤やコンピレーションが大きなセールスになっている状況を見てて感じるのは、「良い作品は古びない」っていうことですね。20代のアーティストが50代になっても現役を続けるというのは難しいかもしれませんが、良い作品は年をとらないで皆さんに愛され続けるんですよね。
だから、音楽の制作現場では、作品を見直す姿勢がより強く求められると思います。過去のヒット曲を真似したような作品は元を超えられないですから、「亜麻色の髪の乙女」のように過去の良い作品をカバーすることで、結果的にアーティストを育てることになりますし、現場の活性化にも繋がると思うんですよ。
今みたいな時代だと、ビートルズの「アビー・ロード」のようなコンセプト・アルバムや1曲10分を超えるようなプログレッシヴ・ロックを作るのは難しいですけど、あの時代の「クリエイティブ魂」は忘れるべきじゃないと思います。音楽のジャンルもこれだけ多様化してくると、ある種淘汰されるジャンルが出てくるのは仕方ないのかもしれませんが、音だけでなく映像とシンクロした作品を作るなどの手法を考えていくべきだと思います。
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デジタル時代の到来で、若いクリエイターもメジャーのレコード会社にたよらず、インディーズなど個人レベルでレコードを出せる環境が生まれました。その結果、詞・メロディ・プロモーションビデオと何でも一人で出来てしまって、人や会社に頼る必要性が薄れてきている気がします。そんな状況の中で、僕が考えているのは、ネットなどを利用した若手クリエイターの交流の場となる「コミュニティ」作りです。
1980年~2000年にかけて、アナログからデジタルの転換期を通過してきた人間から見ると、昔はバンドを組むための「人探し」が全てのスタートだったのに対し、今は自宅のパソコンである程度の作品が出来てしまうので、クリエイターの中には人とのかかわりを怖れている傾向もあるのではないかと思います。
僕が考えるコミュニティでは、詞は書けるけど思うような曲が書けない人やアレンジャーを探している人たちをうまく「マッチング」させて、そこでの出会いで生まれる作品をキャリアのある作詞家・作曲家・プロデューサーが審査して、世の中に出て行く仕組みを作りたいんです。
自分で作った作品がどの程度のレベルかは、レコード会社のオーディションを受けたりしないと、価値判断が難しいですけど、こうしたコミュニティで日常的に若手クリエイターに発表の場を与え、音楽のプロ達が作品のステータスを認めていくことは有意義だと感じています。
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僕にとって、モノ作りとは、食べていくための仕事とは割り切れない部分もある気がします。職業としての作詞家という面から離れて、仕事の発注がなかったり、締切が来なくても僕は何かモノを作りたいんです。「モノ作り」の楽しさこそが、僕の創造の原点だと思っています。
ネット上の海賊行為やCDの売上減など音楽業界を取り巻く環境は厳しいですが、作り手の側が創作に対してタフであり続けることが大切だと思います。例えば、ネットでの著作権処理の仕組みなどのインフラを整備していくことは重要ですが、全ての環境が完璧に整うまで待っている訳にはいかないんですよ。「鶏が先か卵が先か」じゃないですけど、僕らみたいなクリエイターはリアルタイムで作品を作り続けていくわけで、「ビジネスとして売らなければいけないこと」と「自分が本当にやりたいことは何なのか」の創作とビジネスのバランス感覚が大切だと感じています。
その意味で、僕自身も音楽という枠にとどまらず色んな「チャンネル」を持っていたいと思っています。グラフィックや写真に興味があって、趣味的にパソコンをいじったりしていますが、ビジネスの場でもCDジャケットの制作やウェブ・サイトを立ち上げる時にデザイナーとの仕事の進め方や費用的なコストがなんとなく分かったりするんですよ。ビジネスとしてのモノ作りに偏りすぎて、中身が語られなくなってしまっては寂しいし、いつまでもいい意味でのアマチュア的な好奇心を大切にしていきたいと思います。
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| インタビューを終えて |
ひとつの短編映画のように、ビジュアルイメージを沸き立たせる松井さんの歌詞の世界。
アーティストの個性も含め、曲全体を「俯瞰」してイメージそのものをプロデュースする姿勢が、その秘訣なのでしょうか。
クリエイターとしての高いプロ意識とモノ作りへのピュアな情熱。
穏やかな声音で語っていただいた中に、そんな“熱”を感じるインタビューでした。
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