作家で聴く音楽 JASRAC会員作家インタビュー Interview
大島ミチル
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フランスと日本で違う時間の流れ
『For The East』の録音をしたフランスのリモージュ
にある音楽施設のプロデューサーから、「外の人の
新しい風が必要だから、レジデンスコンポーザー(所
属作曲家)にならないか」という話をいただきました。
話があったのは一昨年なんですが、去年はずっと打合せで、今年からコンサートを企画してと、何年っていう単位の仕事なんです。映像の仕事だと長くても一年先ってことはあまり無い。最初の打合せでびっくりしたのは、私があんまりあれこれと言うと、「ミチル、話を急がないでくれ。ひとつでいいんだ今日は」って言われる。私は来ている間に全部話してしまおうとするんですけど、向こうはひとつ話がまとまれば十分というスタンス。音楽っていうのは何百年の歴史の積み重ねで、だから今日明日で全部決める必要は無くて、スペインの「サグラダ・ファミリア」みたいに、百年後に何かひとつ今と違ったものが残せればいい、くらいの感覚。すごい勉強になりますね。

何をやるかについても、「何でもいいからあなたのやりたいことを言ってくれ」って言われて困ってしまいました。日本にいると映像があって、タイムリミットがあって、監督からの要望があってと、いわゆるリミットのある環境でいつも仕事をしているのが、向こうは「あなたは何をやりたいの」からスタートするので、自分から作っていかないといけない。まったく正反対です。

フランスに行くと、日常の時間の流れがとてもゆったりしているので、ほっとする。日本に帰ってくると、言葉が通じるからほっとする。向こうに着くと帰ってきたなって思って、でも日本に戻ってくるとまた帰ってきたなって(笑)。
音楽に触れることが日常の文化
もうひとつ驚いたのは、日本では一部の詳しい人が聴いているような現代音楽のコンサートでも、フランスでは70〜80代のおじいさん、おばあさんが足でリズムを取って楽しそうに聴いていたこと。目の前で演奏してくれる人がいて、それを見に行くというのが喜びであり、日常なのでしょうね。コンサートの料金も安く、特にお金をかけなくても一般の人が楽しむことができる。そういう環境があると、音楽もまた広がっていくのだと思います。
フランスでは権利意識の高さも目立ちます。街で写真を撮っても、たとえばインターネットに流すとか、何かに使おうとしたら、ちゃんと許諾をもらっておかないと後で大変なことになります。ものすごくうるさい。あらゆることに対して、最初から権利意識が高いんじゃないかと思いますね。
今だから伝えられるメッセージ
若い人に何かメッセージを伝えるとすれば、ひとつは好きなことを見つけること。好きなことだと大変でも我慢できる。嫌いなことだと本当に我慢だけになっちゃう。どんな仕事でもいいから、好きなこと、夢中になれることを見つけることかな。あともうひとつは、続けること。

小学校3年生ぐらいのとき、一度音楽をやめたいと思ったことがあります。テキストがつまらなくて、弾いていてもつまらなくて、その頃の日記に、「明日になったらお母さんにやめるって言おう」っていつも書いていました。あの頃が一番、音楽が好きになれなかった。よく高校生ぐらいで、自分の人生って何だろうと悩むのと同じようなことを、小学校3年生で体験したんだなって今は思います。でもそれから、テキストが変わったりクラスが変わったりして、だんだん夢中になって楽しめるようになったんです。そうならずに、もしあの時のままずっときていたら、やはり自分の人生に空白というか、虚無感があっただろうと思います。

好きなことを続けていても、嫌になる時期はきっとある。でもその時期を乗り越えると、また好きになれるんじゃないかなと。続けることは本当に大切だと、今だから思いますね。だからぜひ、好きなことを見つけて、あきらめないで続けてほしい。私はあのとき乗り越えてからずっと、プロになってからも、音楽をやめたいと思ったことは一度もありません。生まれ変わっても、また作曲家になりたい。そう言うと「幸せだね」って周りによく笑われます。友人には「生まれ変わっても大島さんにはなりたくない」って言われますけどね。いつも曲書かなきゃ、書かなきゃと言っているから(笑)。
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