映画上映と音楽著作権 世界の映画音楽創作者からのメッセージ

はじめに

皆さまが劇場(映画館)のスクリーンで鑑賞される映画。迫力ある映像と、臨場感あふれる効果音、そして、名シーンを引き立てる音楽。
音楽は、映画において重要な役割を果たしています。

世界の多くの国では、映画が多くの人々に鑑賞され、興行が成功した場合、それに相応しい報酬(映画上映使用料)が、音楽の創作者にも還元されています。音楽の創作者に正当な対価が還元されることは、次の素晴らしい作品を生み出し、皆さまに新たな感動を届けることに繋がります。

しかし、この音楽の創作者への対価還元が、日本においては十分に行われていない、ということを、世界の著作者は憂慮しています。

そこで、日本の映画関係者の方々や、映画を鑑賞される皆さまに、映画上映使用料に関する日本の現状、JASRACの取組み、世界の映画音楽の創作者からのメッセージを紹介させていただきます。

映画上映使用料の国際比較

欧州をはじめとした世界の多くの国では、映画音楽の創作者に対する著作権使用料(映画上映使用料)として、劇場が入場料売上の一定の割合(1~2%)を、現地の音楽著作権管理団体に支払う仕組みとなっています。

劇場(映画館)が行う映画上映の使用料を、日本の場合には、劇場に代わって、おもに映画の配給事業者が支払うこととなっています。外国映画の上映使用料は映画1作品当たり、一般的な劇場用映画で一律18万円という定額使用料となっています。

日本での2014年の映画興行収入に占める、JASRACの映画上映使用料徴収額の割合は0.08%。世界各国から比べると著しく低いと言えます。

JASRACの取組み

JASRACは、音楽の創作者に、映画の成功に相応しい対価が還元されるよう、使用料規定変更に向けて利用者団体と協議するなどの取組みを行っています。

世界各国の著作権管理団体と、そのメンバーである著作者からも、JASRACの取組みに強い期待が寄せられています。

世界の映画音楽創作者からのメッセージ

Craig Armstrong

日本は映画興行収入世界第3位の国で、文化的に成熟した国であると言えますが、成長を続ける映画産業と比べ、音楽の創作者への対価が50年前とあまり変わっていない状況をとても憂慮しています。映画産業と音楽文化がともに発展していくことを願います。

楽曲提供された主な映画

『ムーラン・ルージュ』(2001)『ラブ・アクチュアリー』(2003)『華麗なるギャッツビー』(2012)

Dario Marianelli

映画の中で音楽の果たす役割は非常に大きく、私たち音楽の創作者は、いろいろ悩み、考え、努力してやっと新しい作品を生み出しているのです。次の素晴らしい作品を生み出すためにも、この創作の過程、努力の結果が正当に評価されることを願います。

楽曲提供された主な映画

『KUBO/クボ 二本の弦の秘密』(2016)『アンナ・カレーニナ』(2012)『ジェーン・エア』(2011)

Elizabeth Matthews

ASCAP最高経営責任者

アメリカ国外でのASCAP会員の音楽著作物の利用に対しても適切な許諾がなされるよう、ASCAPは世界中の音楽著作権管理団体と管理契約によるネットワークを形成しています。この契約によってJASRACは日本におけるASCAP管理楽曲の演奏利用を許諾する権限を付与されています。このグローバルな許諾システムにより、音楽創作者は世界中での音楽利用に対して公平な報酬が確実に得られるようになります。権利に対する公平な報酬の支払いは、ソングライターや作曲家の創造的な努力に報いる形で生活の糧を与え、創造的産業の維持に重要な要素です。この収入なくしては、音楽創作者は新たな音楽を作曲・創作し続けるのに必要な資金を奪うことになってしまいます。これは劇場映画の国際的な商業的成功にとって極めて重要な要素です。

John Murphy

映画が成功した報酬が、映画の成功の一部を担っている、私たち音楽の創作者に適切に還元されているとは言えない状況は、創作者が置き去りにされていると感じざるを得ません。

楽曲提供された主な映画

『28日後』(2002)『マイアミ・バイス』(2006)『キック・アス』(2010)

Lorenzo Ferrero

CIAM名誉会長

音楽は映画になくてはならない要素です。音楽は芸術であり、深く考え悩み、相当な努力をもってしか創作できません。
音楽創作者の利益のためだけではなく、映画産業の成長のためにも、音楽創作者による貢献は公平な報酬の支払いという形で報われるべきだと我々は信じています。なぜならば、そのような環境が整ってはじめて、プロフェッショナルな創作者が新たな作品に魂を注ぎ、特筆すべき作品からビジネスが利益を収め、消費者は感動し満たされるという理想的なサイクルが生まれるからです。
日本は国としては先進国です。日本が著作権制度に基づく創作者の保護という分野においてもリーダーとなってくれることを期待しています。また、日本の映画産業が音楽創作者に公平な報酬を支払うことに同意していただけることを心より願っています。

Marco Beltrami

ツアーを組んだりライブを行なったりして生計を立てる音楽創作者とは異なり、私はおもに映画音楽を作曲することで生活しています。したがって、映画が上映され、JASRACやその他の著作権管理団体が、その利用に対して集めた使用料を頼りに私は生きていますが、それは作曲家としての仕事を完成させてから何カ月も、場合によっては何年も経ってからのことなのです。さらに、映画音楽の制作に必要な経費は、必ずしも作曲者が受け取る前払いの報酬で賄えるわけではないため、団体が集めて分配する使用料の重要性はその分大きいのです。

楽曲提供された主な映画

『LOGAN/ローガン』(2017)『キング・オブ・エジプト』(2016)『アイ,ロボット』(2004)

© Matthew Andrews

Patrick Doyle

先進国である日本には、著作権制度で創作者の経済的利益を保護するという面においてもリーダーとなることを期待するとともに、日本の映画業界のみなさまには、近い将来、音楽創作者に対して正当な報酬を支払うことにご同意いただけることを心から願っています。

楽曲提供された主な映画

『シンデレラ』(2015)『メリダとおそろしの森』(2012)『ハリー・ポッターと炎のゴブレット』(2005)

Robert Ashcroft

PRS for Music 最高経営責任者

日本での、映画1本当たり一律18万円という低い音楽著作物の上映使用料は、PRS会員の著作権及びその創造性を著しく過小評価しています。したがって、PRSはJASRACの映画上映使用料率を上げるとの提案を全面的に支持し、この長年の懸案事項をできるだけ速やかに解決すべきと考えます。日本映画も、創作物として評価されています。その映画の成功に不可欠な音楽の著作権への評価について、日本の映画業界のみなさまからのご理解をいただけることを心から願っています。

岩代 太郎

どうか日本が著作権管理業界における世界の先駆者として、これからの映画業界や音楽業界で、その存在感を広げ、知らしめて欲しいと願うばかりです。
私たちの作品は、人々が抱く心の内でしか存在出来ないカタチ無きモノ。だからこそ、世界基準となりうるルールが「今」必要なのだと思います。

楽曲提供された主な映画

『レッドクリフ Part II ―未来への最終決戦―』(2009)『レッドクリフ Part I』(2008)

川井 憲次

今回の映画上映規程の変更や、アジアにおける印税のフォーマットがスムーズに決まることを願ってやみません。
もちろん、映画関係者全員が納得できるカタチになることが私の希望です。

楽曲提供された主な映画

『綉春刀修羅戦場II - Brotherhood of Brades2』(2017)『イップ・マン 葉問1~3 』(2008、2010、2015)『セブンソード』(2005)

坂本 龍一

音楽業界全体の売上げ縮小が続く中、音楽家は音楽を作るだけでは生活することが難しくなっています。インターネットを介した音楽の頒布はすばらしいことですが、音楽自体の値段が限りなくゼロに近づいているのは残念な事実です。しかし、映像と一体となる音楽のアウトレットは、形を変えながらますます需要が増しています。そんな時、新作・既存に関わらず、使用される音楽とその著作者に対しての正当な対価が支払われることが重要なのは言うまでもありません。映画興行収入において世界の高位である日本が、先進国ならびにアジアの中でリーダーシップを発揮し、クリエイターの経済的基盤を守るために力を尽くしてくださることを願って止みません。

楽曲提供された主な映画

『レヴェナント 蘇りし者』(2015)『シルク』(2007)『戦場のメリークリスマス』(1983)