200010月6日

社団法人 日本音楽著作権協会

株式会社        野村総合研究所

音楽電子透かし技術の国際評価プロジェクト「STEP2000」の評価結果を発表

社団法人日本音楽著作権協会(以下JASRAC、本部:東京・渋谷区、理事長:吉田茂)が、著作権管理団体の国際組織であるCISAC(本部:パリ、事務局長:エリック・バティスト)、BIEM(本部:パリ、事務局長:ロナルド・ムーイ)とともに、株式会社野村総合研究所(以下NRI、本社:東京・千代田区、社長:橋本昌三)に事務局を委託し実施した、著作権管理団体による音楽「電子透かし」技術の国際的な評価プロジェクト「STEP2000」がこのほど完了いたしました。

プロジェクトリーダーであるJASRACは、事務局であるNRIからの実施報告書を受け、技術の評価認定を行いましたので報告いたします。

実施の概要

6月15日にプロジェクトを開始したSTEP2000は、7月14日に応募締切、8月14日に課題提出締切、9月14日に評価実験完了と、当初スケジュール通りに実施されました。「技術の利用促進に寄与することを目的に、技術の能力認定作業を行う」というSTEP2000の実施の基本スタンスが、技術保有企業から大きな賛同を持って迎えられ、欧州、米国、日本、アジアの多数の企業からの応募を受け、大規模な評価作業が実施されました。

技術の評価視点

応募された電子透かし技術の評価(テスト)は、下記の視点で行いました。

1)耐性:音楽利用のための様々な処理を経ても、挿入した透かしデータが抽出できる。

2)音質:透かしデータを挿入した音楽を、スタジオ環境で再生し、Golden EarSilver Earが聴いても、透かしデータが挿入されていることが認知できない。

評価は、上記に加え、音響学的分析結果や透かしデータの挿入・抽出処理時間も加味しました。なお、提出する透かしを挿入した音楽には、電子透かしデータとして、コピー管理情報(CCI)を15秒以内のタイムフレームに2bit、著作権管理情報(CMI)を30秒以内のタイムフレームに72bitを挿入することを求めています。

*評価の留意事項

電子透かし技術において、耐性と音質の良さはトレードオフの関係にあり、さらには、耐性の中においても、様々な要件がトレードオフの関係にあるため、技術の利用に際しては、技術の持つそもそもの能力に加え、様々な要件をバランス良くクリアするチューニングの実施が求められます。

STEP2000は、期限までに提出された技術を評価対象としており、様々な要件をクリアするためのチューニングの機会を複数回与えていないため、パフォーマンスが不十分である要件に関しても、適切なチューニングを実施することにより、その要件を満たすことが推定されるものについては、その評価に配慮することとしました。

評価結果(認定企業名)

STEP2000が、デジタル音楽流通に関わる事業者への利用の推奨が可能な技術を保有すると認定した企業は、下記の通りです。

IBM

MarkAny(韓国) *1

日本ビクター *2

Signum(英国) *2

BlueSpike(米国) *3

*1) 提出された技術は、音質、耐性のバランスはとれているが、CMIの残存率の向上に考慮したチューニングが求められる。

*2) 提出された技術の利用に際しては、もう一段の音質、耐性のチューニングバランスの向上が求められる。

*3) 提出された技術は、要件の達成水準において、音質に偏っており、耐性全体の水準向上に考慮したチューニングが求められる。

       本件問い合わせ先

株式会社野村総合研究所 広報部 谷口 健二 徳重 武司

電話 03-5255-1981 Email:kouhou@nri.co.jp

社団法人日本音楽著作権協会 広報部 林 幸助

電話 03-3481-2164 Email:koho@pop02.jasrac.or.jp

[資料1]評価テストの概要

提示した認定企業は、提出した技術が、以下を条件とする評価テストで優れたパフォーマンスを示した企業である。

1.テストに使用した楽曲

課題曲は、WAV形式のファイル(44.1kHz/16bit/2ch)としてCD-Rに記録し参加企業に提供した。耐性テストは、ポップス2曲、クラシック1曲、特殊音響曲2曲、音質テストは、前記5曲のうち、ポップス、クラシック、特殊音響曲をそれぞれ1曲使用した(なお、特殊音響曲の課題曲には、日本の伝統音楽やパーカッション曲を用いた)。

2.耐性テストの概要

耐性テストは、同一条件下において、以下の処理、環境を想定し、予め参加企業が挿入した透かしデータが再び抽出できるかを評価した。

マスタリングスタジオでの処理

放送スタジオでの処理(及び放送実施環境の想定)

インターネット配信に関わる処理

消費者が用いる一般的機器での処理

具体的な耐性テスト項目は、以下の通りである。

耐性テスト項目

テスト項目

処理の概要

D/AA/D変換

DigitalAnalogDigital

チャンネル数変換

Stereo(2ch)mono

ダウンサンプリング

44.1kHz/16bit/2ch16kHz/16bit/2ch

振幅圧縮

44.1kHz/16bit/2ch44.1kHz/8bit/2ch

時間及びピッチの

圧縮と伸長

・時間の圧縮伸長:±10%

・ピッチシフトの圧縮伸長:±10%

線形データ圧縮

MPEG Audio Layer3MP3):128kbps

MPEG AAC128kbps

ATRACVersion4.5

ATRAC 3105kbps

Real AudioISDN

Windows Media AudioISDN

非線形データ圧縮

FMFM多重放送、地上波TV放送)

AMAM放送)

PCM(衛星TV放送:CSBS

周波数応答特性変換

FMFM多重放送、地上波TV放送)

AMAM放送)

PCM(衛星TV放送:CSBS

雑音(ノイズ)

ホワイトノイズ:S/N: 40dB

3.音質テストの概要

1)ABXテストで実施した。

被験者は、透かしが挿入されていないもの(A)、透かしが挿入されたもの(B)、透かしが挿入されているかどうか明らかでないもの(X)を聴く。

被験者は、ABを交互に40秒間ずつそれぞれ2回ずつ聴き、その後X40秒間聴く。被験者は、XABどちらかを判断する。

2)回答(一致)の偶発性を排除した。

回答(一致)の偶発性を排除するために、上記のテストを、すべての企業について5回ずつ実施した。

同一の被験者が、5回のテストいずれも透かしが挿入されているかどうかを認知できた場合、その被験者が透かしの挿入について認知できたと定義した。当定義により、回答結果の有意性は、95%以上となる。

3)被験者は、レコーディング業界のGolden EarSilver Earから、下記の4つの職種それぞれにおいて、4人ずつ選出された。

レコーディングエンジニア

マスタリングエンジニア

シンセサイザーマニピュレーター

オーディオ評論家

[資料2]評価テストの結果総括

1.耐性テストの結果総括

CCICMIのいずれも優れた耐性結果を残す企業があり、音質テストの結果とあわせて見ると、音楽の電子透かしの技術水準は、研究段階から実際の利用段階へ入ったことがうかがえる。

電子透かしならではのセキュリティ要件であり、最も重要な耐性要件の1つである「D/AA/D変換」は多くの企業が好成績を残した。一方「ダウンサンプリング」「振幅圧縮」「時間及びピッチの圧縮/伸長」及び「チャンネル数変換」に関しては、それぞれの項目で優れた結果を残す企業とそうでない企業に2極化した。

圧縮操作への耐性は、全般には好成績を残す企業が多かったが、圧縮率の高いものへの耐性(特にストリーム配信「Real Audio」)の結果は総じて芳しくなかった。

放送に関わる圧縮操作及び放送実施環境に対する耐性は、AMに関しては一部の企業を除いて、良い結果が得られなかった。一方、FMPCMに関しては、優れた結果を残す企業がいくつか見られた。

2.音質テストの結果総括

いずれの課題曲においても、多くのGolden EarSilver Earに透かしデータの挿入が認知されない企業がいくつか見られた。

認知者率から見た、透かしデータの挿入の難易度は、特殊音響曲、クラシック、ポップスの順であった。また、合格企業のポップスにおける認知者率は、極めて低いものであった。

優れた音質の企業は、音響学的分析(周波数分析等)においても、その能力の高さが認められた。

3.その他(処理時間について)

楽曲1分あたりの処理時間は、挿入については企業間の差はあまり大きくなかった。一方、同じく抽出については、数秒で実現する企業と、数十秒以上の時間が必要な企業が存在した。