音人工房

JASRAC 日本音楽著作権協会

第8回 ヒロイズム her0ism

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Vol.2 自分なりのポリシーをもって、突き抜けて良いものを創るしか生き残る道はない

表現する道ではなく、ものづくりに専念しようと決心し、職業としての作曲家になるためにどんなことをされたんですか?

ヒロイズム:20歳でレコード会社などにデモテープを送り始めました。そのときは、この世界の仕組みが分からなかったので、どこかに所属すれば成功だと思っていたんです。所属することはスタート地点にしかすぎないんですけど、そのときはそこをゴールだと思っていて。数社から声をかけていただき、いわゆるお試し期間として一定のアーティスト向けにひたすら曲を書いていたんですが、実際にコンペに出してもらえているのかさえ分からなかったし、反応もなかったんです。自分が良いと思って創っていたものが良くないのかなってなるとぶれてきちゃって、好きになれないような流行りを取り入れてみたりするんです。自分が良いと思えない限りは流行りを取り入れたくないんですけど、そのときは暗中模索でした。やめたらどれだけ楽なんだろうと。あの時代はつらかったですね。

今思うとそこが一番の下積み時代でしたか?

ヒロイズム:そうですね。鍛えられましたね。その時代にサビが弱いとずっと言われ続けてきたんです。サビはJ-POPなら一番盛り上がる部分なので、それが弱いと言われてきたことがものすごくコンプレックスで。コンプレックスって自分が感じているうちは強みなんだよと言われても、そのときは全然響かないんですよね(笑)。

そのコンプレックスはどのように克服していったんですか?

ヒロイズム:ずっと諦めなかった考え方がひとつあるんです。自分が創りたい曲のサビは、誰しもが良いと思うポップスの王道ど真ん中にあって、その土俵は一番競争相手が多いんです。だから、自分なりのポリシーをもって、突き抜けて良いものを創るしか生き残る道はないと。今でもその考え方は変わらないですし、海外でも認めてもらえるようになってきて、ようやくコンプレックスが武器になってきたのかなと感じています。

その海外でライティング・キャンプに参加されたと伺いましたが、そのきっかけを教えてください。

ヒロイズム:お世話になっている方から、先輩の代打でお話をいただいたのがきっかけでした。あるプロデューサーからも、これから外国人作家がたくさん日本に来て、コライト(Co-Write/共作)が主流になってくるので、外国人と一緒にやっておいた方がいいよと声をかけてもらっていました。そのときはまだピンときていなかったんですけど、海外生活の経験があったのでやってみようかなと思って参加しました。

そのライティング・キャンプは、どんな様子だったのでしょうか?

ヒロイズム:始めに行ったのはドイツのハンブルク近くのレーパーバーンという所でした。世界から集まった有名プロデューサーやヨーロッパのアーティスト、レコード会社の方が、今こういう曲を集めているっていうプレゼンテーションをして、それに対して作家がチームを組んで創っていくというのがいわゆるライティング・キャンプです。初体験ということもあり、日本人は自分一人だけでしたので、最初はどう立ち振る舞ったら良いかも分かりませんでした。

どのように周りの外国人作家と打ち解けていったんですか?

ヒロイズム:とりあえず、明るいキャラクターでお祭り的に騒がそうと、ダンス曲の作曲中に自分でも使ったことがない尺八を使ってみました。そうしたら、めっちゃクールだなって盛り上がり、いつもこんなことやっているのかって話題になって(笑)。そういうノリが外国人にとっては楽しいんでしょうね。でも、初めての海外でのライティングで日本向けの曲を書くつもりはありませんでした。一枚も売れなくてもいいからヨーロッパのアーティストに曲を提供したいと思っていました。日本人として引けを取るのは悔しかったので、楽曲制作中は一番良い形になるまで外国人作家たちと意見をぶつけ合いました。

アメリカのスタジオでの楽曲制作風景

海外と日本では楽曲制作の方法は違うんですか?

ヒロイズム:全然違います。海外では3~4人でコライトすることが多いので、まずそこが根本的に違いますね。外国人作家の創り方は大きく分けて2タイプあると思います。アコースティックギター1本で鼻歌からコードを創っていくメロディ重視のタイプと、あらかじめトラックを用意してメロディをのせていくタイプ。トラックでもビートだけ組んでいる人もいますね。制作中は、英語で話すと敬語を気にする必要がないので、良い意味で遠慮していないし、アイデアも出てきます。日本でも色々な方々から声をかけていただけるようになって積極的にコライトするようにしていますが、上下関係があって緊張してしまうとか、そういう文化の違いもありますね。

ヒロイズムさんはどんな創り方をするんですか?

ヒロイズム:メロディから創ることが多いですね。鍵盤で創るときは、左手はコードを自然と押さえて、右手でメロディを弾いたりします。最近世に出た曲は、鍵盤を弾きながら創るパターンですね。右手で何となくメロディを弾きながら歌うっていう作業は一番自由度が高いと思っています。ギターを弾きながら創るパターンもありますが、手癖が入って自由度が制限されることが多いです。それと、シャワーを浴びたり、お風呂に入っているときに携帯をボイスレコーダーにして鼻歌のメロディを吹き込んだりもしています。

音人アイテム -OTOBITO ITEM-

ヒロイズムさんの創作活動に欠かせないアイテムをご紹介!

iPadに入っているピアノHDというアプリと、iPhoneのボイスレコーダーです。
海外に行くと、ピアノHDを使わない日はないですね。鍵盤が結構広くて、左手でルート確認して、右手でメロディを創る作業がミニマム版としてできるんです。コライトのときも必ずしも鍵盤の前に座れるとは限らないので、必ずこれで音の確認をしています。
iPhoneのボイスレコーダーについては、ピアノHDで弾いたものをこれで録るという作業は必ずやっていますね。歌詞もiPhoneのメモに入れておけば、クラウドで別の端末に入ってしまうのでとても便利です。あとは、実は観葉植物がすごく好きなんです(笑)。音ではないけど、曲を創る現場ではとても大切なんですよね。

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